ちょっとした思いつきや見聞きしたことを書き留めるために、クラウドノートツールの「Evernote」は非常に使い勝手がいいようです。しかし、その使い方をどこか間違いのように感じているのは、Evernote活用術等の著書を多く持つ文筆家の倉下忠憲さん。今回のメルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』では、「Evernote」が持つ素晴らしい機能がゆえに「間違えて」使ってしまったと分析していますが、一体どういうことなのでしょうか。
小さく儚い情報たち
改めてEvernoteについて考える日々が続いています。最近は、「なぜEvernoteを間違えたのか」を考えています。「Evernote(社)が間違えたこと」ではなく、ユーザーたる自分が「Evernoteを間違えて」使ってしまった理由です。
ファイリングからの開放
Evernoteでは、command + n を押すだけで新しいノートが作成されます。保存するフォルダをツリーから選ぶ必要もなければ、命名規則に抵触しないファイル名をつける必要もありません。コマンドキー一発で新しい保存領域が生成されるのです。
同じことを普通のテキストエディタでやろうとする、やっぱり二、三の引っ掛かりがあります。保存する場所を選び、その内容に適切だと思われる名前をつけなければならないのです。
「名付け」は非常に重要な要素であり、プログラミングにおいても重視される観点ですが、だからこそ知的負荷は高いと言えるでしょう。
Evernoteはクラウドノートツールの走りのような存在であり、Dropboxのようなクラウドストレージを除けば、企業が提供するサーバーに情報を置くからこそのクラウドです。ユーザーがローカルのファイルに情報を保存する必要はどこにもありません。
結果、ノートの使い手は「ファイル」にまつわるさまざまな手間・制約から解放されることになりました。
断片をすぐに保存できる
ファイルから開放された環境において、もっとも嬉しいのが「断片的な書き込み」の扱いです。
アナログのメモ帳を使っているときは、ちょっとした思いつきをすぐに書き留められました。「ライフハックとは何だったのか?」「Zoomで定期的にオンラインイベントを開催するのはどうか?」──こうしたメモを、難しいことを何も考えることなく、すぐさま書き込むことができたのです。せいぜい日付を付与するくらいで、それすらも頭を使う必要はありません。
通常のテキストファイル+テキストエディタでは、これが難しいのです。一行だけの書き込みがあるテキストファイルを作るのはあまりに大げさすぎますし、仮にそれを行ったとしてもいちいちファイル名をつけなければなりません。適切にファイル名をつけていないと後から探すのも一苦労です。
Evernoteは劇的にこの環境を変えてくれました。本当にアナログのメモ帳そっくりに走り書きのメモを残せるようになったのです。ファイルもフォルダもない場所において、情報を一つずつ単独でパッケージできるようになりました。どれだけ保存しても、自分のパソコンのフォルダがごちゃごちゃになることはありません。必要があれば検索して目的のものをすぐに──ターミナルのコマンドを叩かなくても──見つけることができます。実に素晴らしい。
その素晴らしさに惑わされたのが、Evernoteを間違えてしまった理由だったのでしょう。
メモとノートの違い
先ほどのような走り書きのメモは、名前の通り「メモ」です。メモとは短期的に消費される情報で、一度利用されたらその役目を終えるものを指します。メモとノートは、使用されるスパンに違いがあり、つまりは異なる情報形態ということです。
そして、Evernoteは名前の通りノートツールです。メモツールではありません。ここに致命的なズレがあったのです──(メルマガ『Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~』2023年6月12日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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