死してなおアンチを刺激。なぜ安倍晋三氏は左派にここまで嫌われたか?

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安倍晋三元首相というリーダーを失ってから1年、未だに後継者が決まらない清和会(安倍派)。自民党最大派閥が置かれているこの現状を、識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、5つの側面から清和会を取り巻く状況を分析・解説。その上で、彼らの今後に対する大胆な提言を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2023年7月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

未だに決まらぬ安倍氏の後継。自民党保守派「漂流」の背景は?

安倍元総理の死去から1年という「節目」にあたって、自民保守派が「漂流」しているとか、安倍派=清和会の後継体制が決まらないといったニュースが一斉に流されました。

話としては、自民党という一政党の、その中の清和会という派閥の問題ということで、誰でも好き勝手な感想を口にする事はできるわけです。ですが、少し考えてみるとこのエピソードそのものに、日本の政治の持っている不安定性のようなものが濃厚に浮き出ているのを感じます。そう考えると、単なる興味本位で流して良い話題ではないことが分かります。

今回は、この点について箇条書き的に整理してみたいと思います。

(1)まずポスト冷戦期にはハッキリあった「親米保守」という立ち位置が変質しているのを感じます。勿論、日本や自民党が親米ポジションから離れたわけではありません。依然として、自民党は保守であり、親米なのは間違いないのですから、言葉としては「親米保守」ということになると思います。

ですが、その意味合いが大きく変化しているのです。まず、旧来の親米保守というのは、例えばですが、橋本龍太郎が政権を奪還してから、小泉がブッシュの反テロ戦争に同調した際もそうですが、3つの意味合いを持っていました。1つは、西側同盟に帰属しつつ、政治的には親NATO、親EUであり、アジアにおいては日米韓台の事実上の4カ国同盟の一員という意味合いです。ブッシュの戦争に同伴したのも、その延長です。2つ目は、軍需産業の深化や武器輸出入の拡大を積極推進する一方で、アメリカの「負担拡大要求」を上手くかわしつつ、軍事費の急拡大を抑制するという軍備管理の立場です。3つ目は、「遠い未来には自主憲法、自主防衛」というややファンタジー的な「ポスト戦後」的な保守イデオロギーが絡んでいました。そこには「枢軸日本の名誉回復」というスローガンも薄っすらと伴っていたのでした。

つまり、軍事外交の方針としてはほぼ100%米国に同調するが、軍備の管理に関しては意外にリアリストであり、けれども心の奥には「枢軸日本の名誉」を回復しつつ「いつの日か自主防衛を」という理念的な目標を内包していたのです。

3番目については、実はアメリカの利害からすれば危険極まりないものですが、とにかくこの3つがセットメニューになっていて、この3点目だけは外せないのと、いくら危険な戦前回帰だと言っても「あれは国内向けのエンタメであり、アメリカにとっては人畜無害」ということが、知れ渡ることで許容されていたように思います。

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