日本的な組織の歪な力関係を物語る典型的な事例
現在、国土交通省を始めとした当局の調査が入っているようですが、警察の捜査も含めて、この会社の不正については徹底的に究明して欲しいと思います。少なくとも、詐欺罪(保険金の不正請求)、器物損壊罪(車や街路樹を故意に損傷)、道路運送車両法違反(車検の不正)などで関係者の刑事責任を追及することは十分に可能でしょう。
最終的には、創業経営者一族の責任を厳しく追及するのは当然として、金融庁などには、この会社と取引をしていた損保ジャパンを始めとする複数の保険会社についても、関与の実態を徹底的に究明して欲しいと思います。自然に考えて、持ちつ持たれつの両者が一体となって続けていた不正であったことは、間違いないのではないかと想像しています。また、同業他社でも似たような不正が行われていないか、この際、業界全体を調査した方が良いと思います。
年商7,000億円、従業員数6,000人、全国に300以上の店舗があるそうですが、こんな会社がこのまま営業を続けることなどありえません。まずは一刻も早い業務停止命令などの行政処分が必要ですし、経営者や幹部の責任追及が待たれます。また、先々は、民間車検場(指定自動車整備事業)の指定取消しや、古物商免許の取り消しなどの重い行政処分も検討されるべきでしょう。
創業家の同族会社で、株式も創業家が100%保有しているようですが、会社再建の為には、創業家やその息が掛かった幹部を総入れ替えする必要があるのは言うまでもないでしょう。その為には、一旦会社を解散するか、あるいはファンドやライバル企業への完全売却などを行う以外に手段はないのではないかと思います。6,000人の雇用を守ることは大事ですが、今後もこの創業家が影響力を保ち続ける形での再建はあり得ません。
最後に、本メルマガでは、たびたび昭和型の経営スタイルがなかなか変わらない日本の組織の問題を指摘してきましたが、これだけ大っぴらな犯罪行為が社内で横行していながら、結果的に多くの社員が、それに加担したり、黙認したりという状況が長く続いてきたことも、日本的な組織における雇用する側とされる側の歪な力関係を物語っている事例だと思います。
それでも、まだ上場企業であれば、コーポレートガバナンス面での仕組みが整備されているので、一定のチェック機能や自浄作用が働くようにはなっていますが、未上場企業については、今回のように完全にブラックボックス化してしまう恐れもあり、盲点になっていると思います。今後は、未上場企業に対しても、売上規模などに応じて、内部統制の仕組みを導入する法改正が必要かもしれません。
※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』2023年8月4日号の一部抜粋です。興味をお持ちの方はこの機会にご登録ください。
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