マイナカード普及を強行するよう念押ししたサントリー社長
政府の強行姿勢を示しているのが、経済同友会の代表幹事であるサントリーホールディングスの新浪剛史社長の発言だ。
新浪氏は6月28日におこなわれた経済同友会幹事としての記者会見の中で、
「マイナンバーカードについてはいろいろと不手際があったことはその通りだ」
としながらも、
「絶対に後戻りせず、しっかり進めてほしい」
「ミスが起きたからやめよう、後戻りしようとやっていたら、世界から1周も2周も遅れていると言われる日本のデジタル社会化は、もう遅れを取り戻すことができなくなる」
と発言。さらに、
「そして、納期。納期であります。この納期(2024年の秋)に間に合うように、ぜひとも仕上げていただきたい。私たち民間はこの納期って大変重要でございます。納期を必ず守ってやりあげる。これが日本の大変重要な文化でありますから、ぜひともこの保険証を廃止する。これを実現するように、この納期に向けてしっかりとやっていただきたい」
と“納期”という言葉で強く、マイナンバーカードを強行するよう念押しした。
新浪氏の発言には“それなり“の理由がある。財界は、もう20年以上も前から、国民の税と社会保障の個人情報を一元管理する共通番号制度の導入を要求してきた。
例えば、2004年には経団連は社会保障・福祉制度に共通する個人番号の導入を提唱する報告書をまとめている(*2)。
実際、第二次安部政権は2013年に民主党政権時代に廃案になったマイナンバー法案を再提出し成立させたが、同年1月23日に開催された「産業競争力会議」においてメンバーであった新浪氏が提出した資料の中には、「マイナンバー・システム」の導入について、
個人の所得のみならず資産も把握して、医療費・介護費の自己負担割合に差をつけ、結果的に医療費・介護費の削減につなげる。
との記載があった。
「官製IT公共事業」であると断言してよいマイナンバー制度
経団連や経済同友会など財界がマイナンバー制度導入を求める背景には、個人情報の“民間活用”がある。
実際、経団連による2010年11月の「豊かな国民生活の基盤としての番号制度の早期実現を求める」という提言書では、「番号制度の必要性」の理由として、「官民の情報共有による国民利便性の向上、新たな産業・サービスの創出」にあると記載。
また、経済同友会の2022年4月の提言でも、目指すべき将来像として、「蓄積された様々なデータが行政サービスの効率化だけでなく、個人や民間企業の自由な発想に基づくイノベーション創出に活用され、データを起点とした経済成長が加速していく社会」との記述がある。
さらに現状、マイナンバー法ではマイナンバーを含む情報を「特定個人情報」と定義し、規制を設けているが、しかし経団連や経済同友会は、この規制を緩和し、一般の個人情報と同様とすることを要求している。
このことを、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」(2023年7月13日付)は、「大量の個人情報を加工・集積したデータをビジネスに利用」しようと画策していると指摘。
そもそも、マイナンバー制度は“ガラパゴス化”日本のIT産業に対し公金をばらまくための「官製IT公共事業」であると断言してよい。その金額は、実に2兆円にのぼる(*3)。
そして、その巨額の費用がわたっているのが、「5大ベンダー(=ITシステム開発会社)」と呼ばれる企業群だ。その企業群は、富士通、日立製作所、NTTデータ、NEC、日本IBMの5社であり、これらは、日本の行政をシステム面から牛耳る存在である(*4)。
これらの企業に対し、マイナンバーのシステム構築、ほかの行政サービスとの紐付け、カード発行・交付、マイナポイントをはじめとする普及促進策などの諸政策に費やされた予算2兆円が費やされてきた。
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