厚生労働省のウェブサイトによれば、大腸内に約1000種類、100兆個もあり、健康維持に重要な役割を果たすとして注目される腸内細菌。中でも善玉菌と呼ばれる腸内細菌が元気に働いてくれることが身体にとっては大切なようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では、糖質制限食の提唱者として知られる糖尿病専門医の江部康二医師が、「大腸の細胞のエネルギー源は、短鎖脂肪酸のみ」であることの意味を解説。腸内細菌のためにどんなものを食べたら良いか伝えています。
大腸のエネルギー源は短鎖脂肪酸その1
今回は、ヒトと腸内細菌と食物繊維の関係について考察してみます。実は一般にはあまり知られていませんが、大腸は、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの「短鎖脂肪酸」をほぼ唯一のエネルギー源としています。(注1)。
「大腸の細胞のエネルギー源は、短鎖脂肪酸のみである」このことの意味を、考えてみます。
短鎖脂肪酸は食材では酢かバターくらいにしか含まれていません。バターや酢だけでは、食材からの短鎖脂肪酸補充は、大腸のエネルギー源としては到底足りません。そうすると、短鎖脂肪酸を人体内で自ら作成するしかありません。
つまり、「体脂肪を分解して作る血中にある短鎖脂肪酸」および「大腸内の腸内細菌が、食物繊維を餌にして産生する短鎖脂肪酸」がヒトの大腸細胞のエネルギー源となっているということです。腸内細菌由来の大腸細胞で利用せずに余った短鎖脂肪酸は、吸収されて全身の臓器のエネルギー源となります。
「食物繊維から腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が、大腸細胞のエネルギー源になる」というのは、少なくとも現世人類全てにおいて共通の生理学的事実と考えられます。
血液中には、脂肪の分解物の短鎖脂肪酸の1種、βヒドロキシ酪酸(ケトン体の1種でもある)があります。それに加えて、酪酸菌、ビフィズス菌などの腸内細菌が、活躍して、食物繊維を餌にして短鎖脂肪酸を生成してくれています。
このヒト腸内の大腸のエネルギー源となる短鎖脂肪酸は、主として酪酸と考えられます。大腸内の酪酸菌が、食物繊維を餌にして酪酸を生産しています。
このように、ヒトにおいて、大腸細胞のエネルギー確保のためには、食物繊維の摂取が極めて重要ということになります。つまり「食物繊維は、ヒトと腸内細菌にとって必須」なのです。
食物繊維は、水に溶けにくい不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維の2種類に分類されます。腸内細菌が食べる食物繊維は、水溶性食物繊維だと考えてほぼ間違いありません。
糖質制限食では、野菜、海藻、キノコ、大豆製品などから食物繊維を摂取できます。特に水溶性食物繊維はアボカド、オクラ、こんにゃく、納豆などに多く含まれています。(続く)
(注1)
清水健一郎「治療に活かす!栄養療法 はじめの一歩」181ページ、2011年、羊土社
この記事の著者・江部康二さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com