庶民を苦しめる物価高の中でも、冬に大きな痛手となるのがガス料金の高騰。原料価格の値上がりを理由に上がっているとされるガス料金ですが、東京ガスは2023年3月決算で売上高で前年比1.5倍以上、営業利益や純利益ではなんと同2.5倍以上と、自分たちの懐はこれ以上ないくらいに温めています。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、評論家の佐高信さんが、1988年に週刊文春に掲載された東京ガス元社長の安西浩氏の傍若無人な発言を紹介。値下げなど考えない企業風土を築き上げた“伝統”の存在を明らかにしています。
東京ガスという傍若無人な会社
『選択』11月号に「東京ガスの悪辣な『料金高止まり』」という記事が出ている。消費者が困るのを顧みない「独占企業」の弊害を厳しく糾弾しているのだが、広瀬道明、内田高史、笹山晋一といった歴代社長には物価高など無縁のことなのだろう。
これを読みながら、安西一族に支配された当時の元凶、安西浩が、息子の邦夫を社長に引き上げて問題になった時、次のように放言したのを思い出した。社長から会長になった渡辺宏は浩の義弟なのだから、私は社名を「安西ガス」に変更しろ、と批判した。
安西浩は『週刊文春』の1988年7月14日号で「どこが悪い!」と開き直ったのである。読んでいて怒るよりバカバカしくなるが、これが東京ガスに限らず「日本の一流企業」のトップの水準なのだ。
「私物化、私物化って言ったってねぇ、地方のガス会社なんて、みんなそうなんだ。秋田、郡山(地区担当)の東部ガスや、原さんがやっている川越のガス会社だってそうだよ。田舎の方は、みんな世襲なんです。
新聞は批判するが、公益事業だからといって、子供を役員にしちゃいけないという法律はないんだ。本田さん(弘敏元社長)の息子も入っているし、中島という専務の息子も入っている。親子で入社しているのは、何十人だっているんだ。
昭和電工の役員に私の長男がいますが、あれは可哀そうなことをした。本当は東京ガスに入りたかったのだが、当時の試験官をやっていた課長や副課長クラスの連中がゴチャゴチャとうるさいことを言うので、仕方なく昭和電工に入れたんだ。
本田さんの息子も、どうにかしてやりたいのだが、コレが出来が悪くてしようがないんだ。オヤジも女を漁って酒ばっかり飲んでいた無能な奴だったが、子供も出来が悪い。こいつなんか、まだ課長ですよ」
まさに言いっ放しの暴言。安西浩の頭の中に公正や公平という概念はないのだろう。
そして、次にはヘキエキするばかりの息子自慢が続く。
「初めて邦夫が会社に入ってきた時、親子でこうも違うものかと社内の評判になったもんです。私なんか、ずっと柔道をやってましてね。先頃、講道館から九段をもらいましたが、ご覧のように身体がでっかくガッシリしているでしょう。怖がって、なかなか下の者も近づいてきません。
その点、息子は180度違うとビックリされたもんですよ。いつもニコニコしていてね。性格がいいと、今でも評判がいいんだ。人望もあるしね。私が副社長になったのが52歳の時だから、54歳で副社長というのは年齢からいっても別に早すぎることはない」
こう言って、54歳で社長にした。
こんな“伝統”をもつ東京ガスが、利益を消費者に還元して料金を値下げするというまともな感覚を呼び戻すはずがなかった。本社にデモでもかければ、あるいは変わるかもしれないが…。
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