なぜ「核兵器」は存在するのか?答えを見出だせぬ国際社会が辿る最悪の道

 

確実に核戦力の拡充に走っているイスラエル

そのような動きはロシアの核戦力の多様化をもたらし、極超音速ミサイルへの搭載や戦闘機・航空機からの核ミサイルの発射、そしてユニークなのが長距離核魚雷(Long-range nuclear Torpedo)の潜水艦への配備です。

これにより、対ウクライナというよりは、ウクライナ戦争においてNATO諸国が介入してきた場合には、直接的な攻撃能力を持つことを意味します。これは今回お会いした方々が口々に挙げた新しい、しかし現実に起こりうる脅威の典型例です。

このほかに中国も報じられている通り、かなり急ピッチに核戦力の拡大を行っており、中国がすでに実戦配備可能なレベルにまで達しているとされる両極(北極と南極)廻りで攻撃できる極超音速ミサイルへの搭載の可能性が高いとみられるまでに向上もしてきています。

中国の場合、ただこれは実際の攻撃のためというよりは、攻撃されないための核軍拡と言われていますが、ロシアと中国の2正面での同時発生的な核戦争の可能性に神経質になるアメリカ軍にとっては、そうは見ていないようです。

警戒レベルは上がり、実際に具体的なsimulationが議論され、演習されているとのことです。

他には北朝鮮の著しい核開発と運用能力の向上と拡大が確認できます。このところの弾道ミサイルの発射は“軍事偵察衛星の周回軌道への投入”という形で報告されていますが、これは先日のロ朝首脳会談時に交わされたロシアと北朝鮮の宇宙技術における協力(実際にはロシアからの技術・知見の提供)がなしえた技術的な“快挙”にはなりますが、これは北東アジア地域の安全保障のパワーバランスと環境を大幅に変えることになります。

いろいろな分析を総合的に見てみると、これも中国と類似していて、“他国から攻撃されないための核戦力配備”と言われていますが、ロシアと中国の専門家も、実際にはそうとは見ておらず、北朝鮮は金王朝の存続をかけて、地域の不安定化と対米・対中・対ロ交渉の切り札として核兵器の存在を用い、場合によっては、限定的なターゲットに向かって発射・使用する可能性も排除できないと考えているようです。

具体的なエリアの一つがオホーツク海・ベーリング海周辺の“何か”と言われており、米中ロともに警戒していると言われており、もし瀬戸際外交的にここに何からの威嚇を行うようなことがあれば、北東アジア地域は火の海になる可能性が出てきます(ただアメリカにとっては、先ほど触れた2正面での核保有国との戦争の同時執行の危険性は避けられるかもしれないですが)。

そして今、確実に核戦力の拡充に走っているのが、現在、ハマス壊滅を軍事目標に掲げているイスラエルです。これまでイスラエル政府は核保有を決して公には認めていませんが、イスラエルが保有国であることは国際社会においては暗黙の常識となっており、アラブ諸国の警戒の的になっています。

元々はアメリカ・英国からの技術・知見の提供と移転が開発および配備のきっかけになっていると言われていますが、イスラエルの類まれなる技術力で独自に能力を向上させ、弾頭数は少ないものの、その破壊能力と運用能力はかなり高いと予想されています。

今回のガザ紛争までは、イスラエルの核保有は究極の防御戦略と位置付けられてきましたが、今回のハマスとの戦いにおいて、極右政党出身の閣僚による発言とはいえ、現役閣僚が核兵器の使用の必要性についての見解を示す事態になったことは、すぐにネタニエフ首相がその内容と可能性を打ち消しましたが、イスラエルの核戦略の転換点と観ることが出来るでしょう。

イスラエルの核への積極姿勢は、中東のパワーバランスに大きな影響を与えるだけでなく、東地中海に位置するという地政学的なポイントに鑑みて、欧州全体と北東アフリカを巻き込んだ大きな安全保障地図の書き換えに繋がります。

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