日本国籍保持も可能。ドイツで議論進む「二重国籍容認法」は是か非か?

 

つまり、私は30年も前から、ドイツに帰化する気なら、いつでもできたが、敢えてそれをしなかった理由は実にシンプルで、自分がドイツ人だとは思えなかったからだ。ドイツには50年も前から多くのトルコ系移民がいるが、その中に、今でもトルコ国籍を手放さない人がいるのは、私と同じく、出自のアイデンティティに拘っているからかもしれない。

つまり、そういうトルコ人にとっても、私にとっても、フェーザー氏が帰化申請の待ち時間を現在の8年から5年、あるいは、3年にまで短縮してくれても、あまり意味はない。

しかも、さらにピンと来ないのは、氏がこの法改正で、現在、ドイツが陥っている深刻な人手不足の解消を図れると強調していることだ。氏のロジックでは、技術者や特殊技能労働者に、ドイツでは短期間で国籍が得られるという展望を示せば、「世界中の最高の頭脳」を集めることができるという。本当だろうか?

そもそもドイツで働こうという外国人にとって大切なのは、滞在ビザ発給の迅速化や、家族呼び寄せ許可の簡便化、また、住居の確保などで、国籍を乱発すれば良い技術者が集まるというのは政府のこじつけに過ぎない。それに、帰化というのは、短期ビザ、長期ビザ、永久ビザという順番を経て入手するのが普通で、当局が労働者を呼び込むための餌として、最初に投げるものではないだろう。

では、今回の改正における政府の真の狙いは何かというと、「二重国籍」のような気がする。現在、ドイツ政府は、EU、米国、イスラエルなどの国民を除いては、二重国籍を認めていない。たとえば日本人がドイツ国籍を取ろうと思えば、日本国籍を放棄しなければならない。それが、今回の改正で両方保持することが認められるようになるのだ。この違いは大きい。

実は、私はこれまで二重国籍には反対だった(過去形で書いた理由は後述)。日本国籍の放棄も嫌だが、それより何より、私にとっての国籍とは、そう簡単に取り替えられるものではないからだ。

他の日本人もたいていそう思うらしく、少なくとも私の周りには、国籍をドイツのそれと取り替えた日本人は一人もいない。ところが前述の通り、今後はドイツの国籍の他に、どんな国籍をいくつ持っているかは不問となる。しかも、その複数の国籍を、子供や孫がそのまま受け継いでも良いという。

すると、それを聞いた日本人の友人が早速、「じゃあ、私もドイツの国籍を取るかな」と言い出した。前述のように、ドイツには1,200万人の外国人がいるから、皆がこの友人のように思い始めると、まもなく国籍は出自を証明するものではなく、出自を曖昧にするものとなる。

そもそも、今回、帰化を簡便化すると張り切っている社民党や緑の党は、帰化した人たちが選挙権を得て、自分たちに投票してくれると思っているのかもしれないが、例えばイスラム系の人たちは、出産率もその回転率も高いので、人口の増え方が早い。だから、いずれ彼らが民主的にあちこちの議会に座り、政治に携わる日が近い将来、必ずやってくる。だからこそ私は、「ドイツ人よ、本当にそれで大丈夫?」と聞きたくなるのだ。

print
いま読まれてます

  • 日本国籍保持も可能。ドイツで議論進む「二重国籍容認法」は是か非か?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け