人事介入の復讐か?安倍派パー券で完全に覚醒した「特捜」の逆襲と約100年にわたる“戦いの歴史”

2023.12.12
 

「権力の私的乱用」という驕りの先に生まれたパー券裏金化問題

そして、安倍内閣の究極の「権力の私的乱用」が、2020年1月31日の黒川東京高検検事長の定年を6カ月延長する閣議決定だった。当時、「桜を見る会」について、高級ホテルで行われた前夜祭の会費が不当に安いこと、招待者名簿が破棄されたことなど、不審な点が次々と判明していた。また、安倍首相の関連政治団体に前夜祭に関する収支の記載がなく、政治資金規正法違反にあたるのではないかと、国会で野党が厳しく追及していた。

また、河井克行・案里夫妻の買収疑惑も広がっていた。黒川東京高検検事長の定年延長は、これらのスキャンダルを抑え込むため、彼を検事総長にするために、安倍内閣が強引に進めたものだった。

しかし、20年5月、賭けマージャン疑惑で黒川氏に問題が浮上したことで、黒川氏は東京高検検事長を辞任となった。9月には、安倍首相が退陣した。菅氏が後任の首相となったが、「桜を見る会」で特捜が安倍事務所の事情聴取に入っても、菅首相は、官房長官時代のようにそれを抑えようとはしなかった。

「最強の捜査機関」特捜が次々と国会議員をターゲットにするようになった。そして安倍首相亡き今、政治資金パーティー収入の裏金化問題で、安倍派をターゲットにして徹底的な疑惑追及を行おうとしている。まるで、人事にまで介入してきた安倍内閣に対する復讐を果たそうとしているようにみえる。

安倍派の政治資金パーティー収入の裏金化問題は、前述の「権力の私的乱用」という驕りの先に生まれたものだろう。憲政最長の長期政権を築く間、「桜を見る会」での狂騒と同じように、政治資金パーティーを開けば、そのたびに多くの組織、団体、個人が安倍派とつながりを持ってうまくやろうと寄ってくる。予定以上の資金が集まるので、それを内輪で分け合った。横領とされても仕方がない行為だが、誰も権力に逆らって摘発しようとしないという驕りがあったのだ。

私は安倍内閣期に、政治家は「謙虚」でなければならないと主張してきた。それは、政治家が国民の「信頼」を失うと、国家が本当の危機に陥った時に、指導力を振るうことができず、「国益」を損ねてしまうからだ。それは、権力の私的乱用を繰り返す安倍内閣に対する警告であった。

特に、強力な首相の権力は、究極的には「有事」において、首相が指導力を発揮するためにあるはずだ。ところが、首相に「謙虚さ」がなく、「軽率な言動」「驕り」「傲慢な態度」によって、首相の権力に対する国民の支持・信頼が失われてしまうことは深刻な問題である。

有事の際に、首相の指導力が国民に信頼されないならば、それは「国益」を損ねることになる。端的に言えば、台湾有事や北朝鮮のミサイル開発の危機に晒される日本では、岸田首相が防衛費を増額し、安全保障体制を構築しようとしてきた。だが、国民の政治に対する不信感が究極的に高まっている現状で、それがそれを支持するのか。

特に、保守派として安全保障体制の充実に取り組んできたはずの安倍派が、スキャンダルにまみれて、岸田内閣の存続を危うくし、安全保障体制の構築が遅れて、国益を損ねているのは、情けない限りである。私の警告が最悪の形で実現してしまった。

何度でも強調するが、強い権力を持つからこそ、何をしてもいいのではなく、普段はその扱いには慎重にならねばならない。そうでないと、いざというときに権力を使えなくなってしまうのだ。指導者が「謙虚」でなければならない本当の理由はここにある。全ての政治家が、「謙虚さ」の本当の重要性を知るべき時ではないだろうか。

image by: 【山谷えり子公式facebookページ】eriko YAMATANI Official Facebook Page - Home | Facebook

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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