人事介入の復讐か?安倍派パー券で完全に覚醒した「特捜」の逆襲と約100年にわたる“戦いの歴史”

2023.12.12
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政治資金パーティーを巡る問題で、容赦なく安倍派所属議員に「襲いかかる」かのように捜査を進める東京地検特捜部。これまで長きに渡り沈黙を続けてきた特捜は、ここに来てなぜ姿勢を一変させたのでしょうか。その理由を探るのは、政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さん。上久保さんは今回、約100年間に渡る「政党政治vs検察」の戦いの流れを振り返るとともに、2012年に第二次安倍内閣が誕生するや特捜が長い沈黙に入った裏事情を解説。さらに何が安倍派のパー券裏金問題を生み出したのかについて考察しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

気になる最強の捜査機関「特捜」が沈黙した10年間。約100年間に渡る「政党政治vs検察」の戦い

自民党5派閥による政治資金パーティー収入の過小記載問題で、最大派閥「清和政策研究会」(以下、安倍派)に所属する議員が収入の一部を裏金化していたことが明らかになった。岸田文雄首相は、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、萩生田光一党政調会長、高木毅党国会対策委員長を更迭する意向を固めた。世耕弘成党参院幹事長の交代も検討するという。安倍派幹部「5人衆」が、岸田内閣・党執行部から完全に外れることになる。

安倍派は、2018年から22年の間に政治資金パーティーで総額約6億6,000万円の収入があったと政治資金収支報告書に記載していた。だが、所属議員が自身のパーティー券販売のノルマを超えて売った収入が、議員側にキックバックされていた。それは、収支報告書に記載されなかった。それを議員側が自身の事務所にプールしていた事例など、5年間に計1億円を超える裏金を作り出していた疑いがあるという。

この問題については、東京地検特捜部(以下、特捜)の捜査が進んでいる。12月13日の国会閉幕後、安倍派で裏金化にからんだ疑いがある議員や、派閥運営にかかわっている幹部などからの事情聴取を検討している。特捜は全国から応援検事を集めて態勢を拡充している。

「最強の捜査機関」と呼ばれてきた特捜は、約4年の間に8人の国会議員を汚職で立件している。立件時点で、7人が自民党、1人が公明党と全員が与党議員だった。

19年12月、IR・統合型リゾート施設の事業をめぐる収賄容疑で秋元司内閣府副大臣(当時)を、20年6月には公職選挙法違反の疑いで、河井克行元法相と河井案里参院議員の夫婦が逮捕された。

21年1月、鶏卵汚職事件で吉川貴盛氏を収賄罪で在宅起訴、6月には公選法(寄付の禁止)違反で元経済産業大臣の菅原一秀氏を略式起訴、12月には貸金業法違反(無登録営業)で元財務副大臣の遠山清彦元財務副大臣(公明党)が在宅起訴した。3人とも有罪が確定している。

22年12月、政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)で薗浦健太郎元外務副大臣を略式起訴、23年9月、政府の洋上風力発電事業をめぐる汚職事件で、秋本真利氏を受託収賄の疑いで逮捕した。

19年に秋元氏が逮捕されたことは、10年ぶりの現職国会議員の逮捕だった。その前は、民主党政権だった10年、民主党の衆院議員だった石川知裕氏が政治資金規正法違反容疑で特捜に逮捕された2010年までさかのぼる。

特捜が、次々と国会議員をターゲットにするようになった。だが、私はむしろ、約10年間の「最強の捜査機関」特捜の沈黙の方が気になる。

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