「ふと気づけば第三次世界大戦」2024年危機に本気で備え始めた指導者たち

 

コソボ情勢~セルビア系とアルメニア系の対立が激化一途

コソボ情勢についてはいろいろなアングルからお話しできると思います。一つ目は【再燃してきたセルビア系住民とアルメニア系住民の対立】です。 コソボ紛争が終結し、その後、調停合意をベースにUNなどの仲介で8つの水準(統治機関の構築、法の支配、避難民帰還、地方分権化等)の議論が行われましたが、アルバニア系住民が内容に不服を申し立て、それが2004年に暴動に繋がって以降、人口の92%を占めるアルバニア系住民と人口の5%を占めるセルビア系住民の対立が激化しています。 2008年2月17日にアルバニア系住民がコソボ共和国政府の樹立とゼルビアからの独立を宣言しましたが、米英独仏や日本は承認したものの、セルビアはもちろん、セルビアやコソボと関係が近いロシア、スペイン、ギリシャなどは承認しておらず、セルビアは今でもまだ国連に加盟する資格を得ていません。 そのようなこともあるのか、“独立”後のコソボでは、コソボ紛争時以前よりも民族主義的な風潮が高まり、アルバニア系住民によるセルビア系住民への迫害が繰り返され、セルビア国教会の聖地があると同時に、セルビア人にとっては祖先の血が沁み込んだ貴重な土地との認識を踏みにじるアルバニア系住民の行為に対して、セルビア共和国の怒りも爆発した結果、セルビア人とアルバニア人の対立が再度煽られているという実情があります。 紛争前はセルビア国教会の聖地のひとつとしての位置づけを除けば、本当になにもない貧しい地域だったのがコソボなのですが、紛争調停時のアレンジの一つに【コソボにおけるユーロの導入】と【ICTのデータセンターとしての位置づけ(投資)】を受けて経済的な支援から和平の基盤を作ろうとしてからは、利用価値の高い地域に姿を変えていくことになりましたが、それがアルメニア系住民の悲願であった独立を誘発したのではないかと言われています。 しかし、その独立後、アルバニア系住民が行ったことは、依然、紛争前にセルビア人が行っていたことと同じ権力・富の独占と多民族への差別に発展し、それが両民族勢力間での衝突の引き金になってきたという経緯があります。 その軋轢を何とか収め、コソボが再度、火薬庫に化けることがないようにセルビア共和国政府とコソボ政府(セルビアにとっては自治区)の交渉が行われましたが、それが昨年夏に破綻してからは、再びKLA(コソボ自由戦線)が掲げた【武力による独立と統治】という意見が力を持ち始めるという事態になっています。

ここにもロシア・プーチンの影

昨年秋に衝突の危機が迫ったコソボでの緊張は、コソボにおけるアルバニア系住民とセルビア系住民の衝突というよりは、セルビア共和国が自国の自治区で起きている内政問題、そして国家安全保障上の懸念を解決するという立場から介入し、それにコソボ共和国(アルバニア系)が対抗しようという機運が高まった結果と考えられます。 コソボ共和国側としては「これを機にセルビア共和国と決別し、真の独立国を作るのだ」という意気込みが掲げられ、セルビア共和国側としては「これを機に、15年続いた不条理を正し、セルビア人の祖先の血がしみこむ聖なる地であるコソボをセルビアに取り戻す」という主張が掲げられて、一触即発状態に置かれたままになっています。 そして事態をややこしくしているのが、セルビア共和国の背後には、同じスラブ系のロシア・プーチン大統領が付いており、コソボ共和国の背後には、積極的というわけではないもののEUと米英がいるという構図です。これ、どこかでも見られる状況ですが、まさに世界の分断の象徴とも言えます。 ちなみにプーチン大統領がクリミア半島を併合した際、繰り返し国際社会に問うた際、「国際社会はセルビア領のコソボの独立を支持するのに、どうして同じ国々が(ウクライナ領の)クリミア半島のロシアによる併合を支持しないのだ」と言っていたのが印象的ですが、この認識は実は、ロシアがウクライナに侵攻した後も、ロシアによって繰り返されているロジックの一つとなっています。

欧州各国に安全保障上の重大リスク

今のところ、コソボ紛争の再燃とはなっていませんが、コソボが再び火を噴くことになった場合、欧州各国は、ウクライナ・イスラエル・コソボの3つの案件を同時に抱え込むことが出来ず、欧州域内に大きなパニックと、安全保障上の懸念が一気に生じることになりますので、確実に有事の際には、欧州がuncontrollableになり、その影響は地中海沿岸で起きているイスラエルとハマスの紛争、欧州の東端で進行中のロシア・ウクライナ戦争、そして次に触れるアゼルバイジャン・アルメニア間の緊張に波及する可能性が出てきます。 これはあまり予測されていない、欧州にとっての大きな安全保障上の懸念です。 欧州もそれを十分認識しているため、本件の予防調停においては非常に強力的ですが、この案件に人口の3%程度のトルコ系住民の存在を理由に、トルコのエルドアン大統領が介入し、そしてセルビア共和国に不利な状況になることは許さないと、ロシア政府も積極的に介入しだしているにもかかわらず、アメリカ政府が無関心なのがとても気になります。

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