「ふと気づけば第三次世界大戦」2024年危機に本気で備え始めた指導者たち

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「今年は世界戦争勃発のリスクが高い。複数の紛争や緊張が呼応し、偶発的な大戦争に発展する可能性を専門家は恐れている――」始まったばかりの2024年をそう展望するのは、メルマガ 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 著者で元国連紛争調停官の島田さんです。本記事では世界地図を眺めつつ、ウクライナ・パレスチナなど各地の戦況から、アメリカ・ロシア・NATO・イラン・トルコなど主要国の思惑、各国指導者たちの皮算用、最悪シナリオまで俯瞰的に解説します。

2024年の国際情勢はどうなるのか?

通常、年末年始の時期は国際情勢、特に安全保障フロントは少し静かになるのですが、今回の年末年始はイスラエルとハマス、そしてロシアとウクライナというon-goingな戦争の勢いが収まることはありませんでした。 またミャンマーや今後、スーダンなどで繰り広げられる権力争いと、民間人を巻き込んだ惨劇は変わることなく続いています。 そして私が特別な思いを抱くコソボでの緊張の高まりや、アゼルバイジャン・アルメニア間の緊張の高まりも、小康状態を保ってはいるようですが、いつ再燃して、周りに飛び火するか分からない状況に見えています。 今回、このコーナーでは、現在、私が携わる案件についての内容も含め、今年の見通しについてお話いたします。

イスラエル・ハマスの戦争~苦境のネタニエフ政権

昨年10月7日におきたハマスによるイスラエルへの奇襲に端を発したイスラエル・ハマスの戦争。これまでにガザ地区では少なくとも22,000人が命を落とし、命からがら攻撃を避けた市民たちも非常に厳しい生活環境に置かれ、3割以上の市民が飢餓状態に陥っているとされています。

イスラエル軍による容赦ない攻撃はガザ全域に及び、避難所になっている病院・学校も例外なく攻撃対象になっています。 病院では停電が続き、医薬品の極端な不足は、人々の生命を危機に晒しています。イスラエル軍による攻撃で国連や人道支援団体の職員も命を落とすという異常な事態になっています。 10月7日以降のイスラエルによる報復とハマス壊滅を目的とした作戦は、日に日に国際社会からの非難に直面していますが、国内でも激しい非難に晒されるネタニエフ首相とその仲間たちにとっては、もう突き進むしかないという、非常に恐ろしい状況が続いています。

その圧倒的な数と残忍なイメージからイスラエルへの非難がクローズアップされがちですが、イスラエル側もまた大きな犠牲を強いられています。 10月7日のハマスによる同時奇襲攻撃によって、罪なきイスラエル市民とその場に居合わせた外国人が240名超人質に取られ、苦難を強いられ、中にはハマスに人間の盾として使われることになった人もいます。

その後、一時戦闘停止の7日間の間に老人、女性、子供を中心に人質の解放が行われ、それと引き換えにイスラエルが拘束していたパレスチナ人も多く解放されましたが、戦闘再開を受けて、残された人質の安否は分からないままですし、先日は3名のイスラエル人男性がイスラエル軍によって射殺されるという悲劇も起き、イスラエル国内でネタニエフ首相に対する非難が高まっています。 イスラエルの世論を見ると、対ハマス掃討作戦は、もうすぐ事件発生から3か月経過する今でも国民からの支持を受けていますが、イスラエル国民の中でも、イスラエル軍によるガザ市民への無差別攻撃はやりすぎとの声が強まっていることと、人質解放よりもハマス掃討を優先するネタニエフ政権への非難も高まってきています。

唯一イスラエル政府に影響力を発揮できると期待されているアメリカ政府から自重を求められ、ガザ市民への無差別攻撃が国際人道法に違反することを指摘されても、ハマスに対する全面的な勝利とハマスの壊滅という成果を残す以外、自身の権力基盤を守れないネタニエフ首相にとっては、ジレンマを感じつつも、強硬な姿勢と対応を貫くしかないという“悲しい国内情勢と政治事情”が、ガザで起きている悲劇に止めを刺すことになっています。

アメリカ政府民主党も当初よりイスラエル寄りの姿勢を取ってきましたが、これまでの政治文化と異なり、アメリカ国内のユダヤ人層がイスラエル政府と軍の行いを問題視し、それに寄り添う姿勢を取るバイデン政権と民主党議員への反対を公言しだしたことで、対ウクライナ支援の立ち位置と合わせ、外交問題が来年秋の大統領選挙および議会選挙の大きな論点に挙げられるという異例の事態になっています。

この異例の事態により、次第にバイデン政権の対イスラエル姿勢も微妙に変わりつつあり、このままイスラエルがガザへの攻撃を続け、ガザ地区への人道支援回廊の開放を拒み続ける場合には、イスラエルはアメリカ政府という後ろ盾を失い、再び孤立を極め、国際社会において流浪の運命をたどりかねないとの懸念も、実はイスラエル国内で、高まりつつあります。

イランがイスラエルとの対決姿勢を鮮明に

また年末に起きたイランの革命防衛隊の幹部暗殺事案(シリア)は、イスラエル政府は公式に関与について言明していませんが、イラン政府の立場を硬化させ、ライシ大統領に至っては「イランは10月7日以降貫いてきた自制を止め、イスラエルに血の報いを浴びせかける必要がある」と発言して、対決姿勢を鮮明にしています。 これまでイランは10月7日のハマスの蛮行からは距離を取り、イエメンのフーシー派の過激行動などは黙認しつつも、革命防衛隊による直接的な反イスラエル行動は自制してきたと言われています。ハマスによる攻撃に対しては、称賛はしたものの、その後は地域への戦火の拡大と飛び火を警戒するために行き過ぎた行動を慎むようにとの要請をハマスに行っていますし、自身が影響力を行使できるレバノンのヒズボラに対しても、イスラエルに対する攻撃を自ら仕掛けることは避ける様にとの要請を行っています。 ただこの自制も、イスラエルが予防攻撃と呼ぶレバノンとシリアへのミサイル攻撃でヒズボラを過剰に刺激することと、先日の革命防衛隊幹部暗殺事案によって終わりを迎え、イラン政府は「いつどのように」イスラエルへの攻撃を開始するかを考え出す段階に移行したという情報が入ってきています。 イスラエルによる行き過ぎた報復はUAEなどのアブラハム合意参加国の姿勢も変化させ、イスラエルとの外交関係の構築交渉を行ってきたサウジアラビア王国の態度も硬化させていますが、今、中東アラブ諸国は「イスラエルが提供しうる経済技術的なベネフィットと、アラブ社会の連帯」というバランスゲームに直面し、イスラエル・ハマス間の紛争に対しても、非難はするものの、行動はとっていません。 今後、アラブ諸国が、イランとの歴史的な対立を一旦棚に上げてでもイスラエルと対峙することを選ぶのか。それとも直接的に戦火が及ばない限りは、口だけの介入に留まり、イスラエルとのデリケートな距離感を、自国の利益に照らし合わせて取り続けるのか。その決断が下されるとき、今回の紛争の方向性が決まってくるものと思われます。

イスラエルを猛批判、トルコ・エルドアン大統領の腹の内

アラブ諸国に対して無視できない影響力を持つトルコのエルドアン大統領は、アラブ諸国にstand with Palestineを思い起こさせるためにイスラエル政府とネタニエフ首相に対して非常に厳しい表現で非難を加えていますが、一時期は仲介役も期待された中立的な立場を覆してイスラエル非難の急先鋒に立っています。 その理由はいろいろと考えられますが、エルドアン大統領が長年考えてきたアラブ・イスラム社会の統合の実現に向けて、それを邪魔するイスラエル(とアメリカ)との距離を拡げ、イスラムによる一大経済圏を形成する流れを加速させたいという“2次的な”思惑があるようです。 この思惑がどう転ぶのかは、予想不可能ですが、イスラエル・ハマス戦争の“今後”を占うにあたり、トルコの不気味な動きは無視できないものと思われます。いろいろな思惑と利害が絡み合い、結果としてイスラエル・ハマス間の戦争は必要以上に長期化するものと思われます。 ネタニエフ首相は数日前「あと数か月で任務は完了するだろう」との見通しを示していましたが、専門家の分析によると、ネタニエフ首相が掲げる“ハマスの壊滅”を実現するためには数年単位の軍事行動と多数の犠牲をイスラエルにもアラブ社会にも強いることとなり、その時間軸と、彼自身の政治生命とのバランスが取れるか否かが限りになると思われます。 そしてアメリカやロシア、欧州各国で繰り広げられる様々な政治イベントとゲーム(大統領選挙、議会選挙など)が果たして、イスラエルに対して“停戦”を許すかどうかは、個人的には非常に疑わしいとみています。 どのようなシナリオであったとしても、ガザにおける悲劇は残念ながら止まることはなく、結局、多くの不条理と一般市民の犠牲が強制される事態になるだろうと予測できます。非常に残念で、悔しい限りです。

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