ファッションにも「深くて暗い河」が
ファッションについても年長者と若者との間には深くて暗い河がある。これについてはかつて若年男性向けファッション雑誌でコラムを掲載していた50代のライター氏がこう語る。
「若者は年長者のファッションというのを常にダサいものと認識しているのは間違いありません。私が雑誌に関わっていたのは20年以上前ですが、その感覚は変わっていないでしょうね。例えば年長者が若者に流行中のアイテムをファッションに取り入れたりしたら、彼らは別のトレンドに逃避します」
例えばどのようなファッションがそれに当たるのか。
「これはもう数年前になるんですが、若者間で流行っていた細身の綺麗系ファッションを年長者世代が身につけ始めたら、その途端に若者はダボダボ系に逃げましたからね。トレンドには20年周期のサイクルはあるんですが、若者は“ちょっと上”の世代のファッションは半永久的にダサいとみなしてるようです」(同前)
2人の識者のコメントの中にはからずも「サイクル」というワードが登場したが、若者が年長者を嫌うのは「権力闘争の歴史」というサイクルも大いに関係しているだろう。富や女性、権力を我が物にすべく、若者は常に年長者に牙を向く存在であることは数多の事例が証明している。
若者に媚びることが「不必要」な理由
ここで一つの疑問が首をもたげてくる。はたして筆者(やはり50代)を含む年長者サイドが、若者世代の反応を気にするあまり、キョロ充、すなわちリア充と思われたいがために、職場や自身が所属するコミュニティでキョロキョロと周りばかりを気にする必要はあるのだろうか。
あえて言おう、不必要であると。
前出のカウンセラー資格を持つ男性もこのように話す。
「そもそも若者の目が気になる年長者というのは、自分自身がまだ若者のつもりというタイプが多いように感じられます。『30代に突入すればもはや若者ではない』と、それ以下の人間との間に埋められない溝があると認めたときに、その人の人生は先に向かって開けると言ってもいいんだと思うんですよね」
さらに言えば、戦いとは数である。それは日本の民主主義の根幹をなす選挙はもちろん、商品やカルチャーの多くが数的に優位な世代にターゲットを設定していることからも明らかだろう。つまり社会のほうが数的優位を誇る年長者に「ついて」くるのだ。
悩める30~40代の諸兄には、エコノミストの小池理人氏のポストを御覧いただきたい。
【老害】
「高齢者だけじゃない『ソフト老害』が話題に 放送作家・鈴木おさむさん「40代でも行動次第では老害に」」のニュースが話題に。自分も気をつけようと思う一方で、上が気を使いすぎるのもどうなんだろう。
ハラスメントは論外だけど、媚びる必要はないんじゃなかろうか。※資料は総務省 pic.twitter.com/rSbdpQzYhE
— 小池理人/エコノミスト (@kmasato_economy) February 12, 2024
資料として総務省の人口ピラミッドが貼られている。第1次ベビーブーム、いわゆる団塊世代と第2次ベビーブーム(こちらは団塊jr.)、さらに氷河期世代の巨大な山が若干気にはなるものの、あえて下の世代と比べてみれば、30代であっても「数の勝負」であるならば若者世代に負ける要素が何一つとしてないことがお分かりになろう。
【関連】人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐
数字を取りやすい「世代間対決」を煽るコンテンツ
「そもそも“世代間対決”を煽るようなコンテンツは、数字を取りやすいコンテンツなんです」
そう語るのは、ニュースバラエティやワイドショー番組の制作経験のある50代のテレビ関係者だ。
「嫌煙派vs喫煙派やら男性vs女性といった対立構図はいろんな層が乗っかってくるんで企画として通りやすいっていう側面があります。今回の『ソフト老害』はもはや一般的になった『老害』っていうおなじみのワードに、『それって高齢者だけの問題じゃないんですよ』という“意外な切り口”をかけ合わせたものにすぎません。コピーライティングの『常識を否定してみる』という手法も入れ込んだ、うまいやり方ですよね(笑)」
とまれ、何をやっても若い世代に嫌われるのであれば、のびのびと生きるのが一番。若者に媚びる年長者は、あまり格好の良いものでもない。