「公共性の回復」「多様性」と真逆に突っ走る現在
葦津珍彦は、左翼運動が過激化する時代の「公共性の回復」という目的のために、神道と国家を結び付けたほうがよいと考えた。そこに共鳴して集まった人々には、「あの素晴らしい明治時代をもう一度」と考える戦前回帰志向も強かったのだろうと想像がつく。
葦津本人は、左翼思想の人々とも気持ちよく議論ができる人物として評価されていたようだが、その後に集った人々は、時代が下るごとに、変化できずどんどん劣化してしまい、ただの「時代錯誤の老人」が大量発生してしまったのかもしれない。男尊女卑で土地ころがしに熱心な田中総長や打田会長も、典型的な戦前回帰志向らしい。
また、葦津の考えていた神道の意義とは真逆に、戦後の神社本庁発足時にも存在したような、「神道として統一された教義が欲しい」「中央集権的な神道組織が欲しい」という感覚を抱えて、日本本来の多様性を理解できないままの人間も多いのではないだろうか。
それがこじれて原理主義に陥ったり、他の一神教のような組織体制に憧れたり、次々と差別的な発言を吐いたりしながら政治に関わろうとし、「2000年以上の長きにわたり男系で皇位継承されてきた万世一系の伝統」「神武天皇から続くY染色体」などの呪文を唱えながらカルトへの道をひた走るようになったのではないかと想像した。
また、長期政権と結びついてガチガチの組織になればなるほど、「この世間から仲間外れにされたら怖い」という感覚で、自分の考えを捨てた政治家も増えただろう。
神道政治連盟は、2020年にLGBTの保護を主張していた稲田朋美を神道政治連盟国会議員懇談会の事務局長から解任し、さらに落選運動を企てたという。女性であることも拍車をかけたのだろう。さらに、2022年には、自民党の国会議員が参加した会合で「同性愛は精神障害または依存症」などと書いた冊子を配布していた。
「男系男子固執・男尊女卑・LGBT差別」という“教義”に反する政治家は、足を引っ張ってやる──そんな妄念に囚われて、「公共性の回復」とはまったく違う方向へ突っ走り、日本を自滅に向かわせているのが、現在の各団体なのである。
神社本庁と神道政治連盟の思想の源流となった葦津珍彦は、かつて、「日本皇室の万世一系とは、男系子孫一系の意味」としながら、憲法の「世襲」の規定には女系も含まれるとし、男系限定を維持するなら側室制度を復活するしかないという見解を述べていた。
さらに、旧宮家の復籍に関しては、「君臣の分義を厳かに守るために」「決して望むべきではないと考える」とも述べていた。
いまの状況を眺めて、葦津はどう思うだろう。その2に続きます――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年4月9日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみ下さい。泉美木蘭氏が神社本庁の闇を斬る「その2」は2/16号で配信予定。また、4/9号の小林よしのり氏メインコラム「ゴーマニズム宣言・第529回『芸能の長い長い助走』」や読者Q&Aコーナーなどもすぐに読めます。
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