花粉症の原因は「抗生物質の濫用」か?東大名誉教授が突き止めた国民病の“真犯人”

 

抗生物質の危険が急激に広がった理由

さて、言うまでもなく抗生物質の始まりは、スコットランドの細菌学者=アレグザンダー・フレミングが青カビ由来の物質が体内のある種の真正細菌の増殖を抑制し、やがて死滅させる効果を偶然発見したことにある。ハワード・フローリーとエルンス・チェインが1942年に製法を開発し、45年に工業生産に成功、第2次大戦で多くの負傷兵や戦争被害者を感染症から救った。また同じ頃、ウクライナ出身の米国人学者=セルマン・ワックスマンが結核に効く土壌微生物期限のストレプトマイシンを発見し、両々相俟って「抗生物質の時代」が幕を開けるのである。抗生物質(Antibiotic)という言葉自体、ワックスマンの造語と言われている。

ここに名前が出た人たちが相次いでノーベル医学賞を受賞したこともあって、抗生物質を「万能薬」であるかに崇める風潮さえ生まれ、米欧日で新たな抗生物質の発見・開発・普及の大競争が現出。日本でも1950年代からブームが始まった。が、そこには大きな落とし穴があって、たちまちのうちに抗生物質の大濫用時代に突入していくことになる。

もちろん、抗生物質そのものは「良薬」である。1950年代までは、結核をはじめ肺炎・気管支炎、チフス・コレラなどの胃腸炎、腎炎・ネフローゼなど細菌感染症は「死に至る病」で、それで亡くなる特に子どもたちが後を絶たなかったが、その後の10年間で急ブレーキをかけたように死亡率が低下した。そのため抗生物質神話はますます膨らみ、多くの医師が「風邪」というだけで特に子どもたちに最新で最強の抗生物質を投与し、また親の側でも熱や咳の症状は抗生物質を飲まないと治らず、重症化を防げないと信じ込んで医師に投薬を懇願するようになった。

実際、2008年に群馬県桐生市で開業した或る小児科専門医が驚いたことは、多くの小児科が専門でない医師が最新・最強の抗生物質を多用していることだったと述懐している。「ウイルス感染による風邪には抗生物質は無効であることを医師さえ知らず、多くの子どもたちが不要であるばかりか、副作用の危険も大きい抗生物質を内服させられている」と。

食物からも大量の抗生物質が体内に

加えて、抗生物質の家畜・家禽、養殖魚、果実・野菜の病気治療用としてだけでなく、それを低濃度で長期に与えることで飼料効率を向上させる成長促進剤としての利用も広がってきた。しかも皮肉なことに、家畜・家禽を狭い檻の中に身動きできないほど押し込めて糞の掃除もロクにしないような劣悪環境で飼育しても、抗生物質を与えていれば育ちがよく、そのため畜舎や鶏舎の清潔度を保つための手間が省けるというのである。

このような食品を摂ると口の中や喉が痒くなり、場合によっては全身の蕁麻疹、咳などの激しい症状に陥る人が出てきて、これも従来は「口腔アレルギー」など当人側の体質のせいにして、その食物を遠ざけるような対処をしているが、何のことはない悪いのは抗生物質入りの食物の側なのである。

長崎大学の山本太郎が試算した2012年の「我が国における用途別抗生物質使用量」によると、合計1,700トンのうち人の医療用に使われたのは520トン(30%)にすぎず、家畜医療用720トン(42%)、家畜・家禽・養殖魚用の飼料添加物用180トン(11%)、果実・野菜の農薬用を含むその他280トン(17%)と、食品生産上で使われて知らないうちに摂らされている量が遥かに多い(山本太郎『抗生物質と人間』、岩波新書、2017年刊)。

抗生物質がなぜ家畜などの成長を促し肥満をもたらすのかのメカニズムはよく分かっていないが、抗生物質が腸内に常在する微生物の活動を抑制しタンパク質が無駄に消費されるのを阻害しているためではないかと考えられている。戦後になって日本でも、子どもたちの背が格段に伸び、同時に戦前にはほとんどいなかった肥満児も目立つようになったが、これは必ずしも栄養状態が良くなって健康で頑強な子が増えたのでなく、家畜と同じく未解明のメカニズムに駆られた不健康な現象かもしれないのである。

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