伊藤博文から安倍晋三まで。吉田松陰の“誇大妄想”を実行に移して日本を150年間も誤らせてきた長州閥の歴代首相たち

 

吉田松陰はテロと侵略しか言っていない

この民権源流探索シリーズなどですでに何度か述べてきたことであるが、吉田松陰が29歳で処刑されるまでに長州藩士を中心に大変な思想的影響を与えたかに言うのは嘘八百であって、内政面では水戸藩が井伊大老を討つなら我々はその下の間部老中を殺そうとテロ計画を公言して未遂で捕えられたことくらいが業績と言えばそうで、外政面では攘夷論が変形膨張した「アジア全面侵略計画」を講じたことくらいだろうか。

奈良本辰也の編訳による『吉田松陰著作選』(講談社学術文庫、2013年刊)所収の「幽囚録」にはこうある。

◆国は盛んでいなければ衰える。だから立派に国を立てていく者は、現在の領土を保持していくばかりでなく、不足と思われるものは補っていかなければならない。

◆今急いで軍備をなし、そして軍艦や大砲がほぼ備われば、北海道を開墾し、諸藩主に土地を与えて統治させ、隙に乗じてカムチャツカ、オホーツクを奪い、琉球にもよく言い聞かせて日本の諸藩主と同じように幕府に参観させるべきである。また朝鮮を攻め、古い昔のように日本に従わせ、北は満州から南は台湾・ルソンの諸島まで一手に収め、次第次第に進取の勢を示すべきである。

◆オーストラリアは日本の南にあって、海を隔ててはいるが、それほど遠くでもない。その緯度はちょうど地球の真中あたりになっている。だから草木は繁茂し、人民は富み栄え、諸外国が争ってこの地を得ようとするのも当然なのである。ところがイギリスが植民地として開墾しているのは、わずかその十分の一である。僕はいつも、日本がオーストラリアに植民地を設ければ、必ず大きな利益があることだと考えている。

◆朝鮮と満州はお互いに陸続きで、日本の西北に位置している。またいずれも海を隔て、しかも近くにある。そして朝鮮などは古い昔、日本に臣属していたが、今やおごり高ぶった所が出ている。何故そうなったかをくわしく調べ、もとのように臣属するよう戻す必要があろう……。

外国に行ったこともなく具体的な知識・体験など何もないのに、漢籍に基づく机上の空論を精一杯膨らませて、「あそこを攻めよ、ここを植民地にせよ」などと大口を叩いている反動勢力代表の言葉だが、驚くべきことに、伊藤博文から安倍晋三に至る長州閥の首相はこの松陰の誇大妄想をその通りに実行に移してこの国を150年間も誤らせてきたのである。

ちなみに、この奈良本もマルクス主義史観を京都大学、立命館大学で広めた人。長州出身ということもあり「松陰に惚れて惚れて、惚れ抜いて」と自分で言うほどの熱の入れ方で『吉田松陰』(岩波新書、1951年)を書いたほか、上掲書を含め松陰についての本を多く出している。しかし上掲書巻頭の「解説 松陰の人と思想」を読むと、神話を丸ごと信じ込む「天皇絶対主義者」である松陰は、しかし「人間性に対する深い信頼」を持っていたので、「人民抑圧」の天皇制国家を作ろうとしたのではなく、天皇を象徴とすることによって「封建制度の下で苦しむ人民の解放の方向を打ち出そうとしていた」などと、混乱に満ちた言い訳っぽい松陰擁護論を書き連ねていて、丸山眞男と同等レベルであることを曝け出している。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2024年6月10日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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