しかし、中国で施行されている他の法律などと合わせて考えると、中国政府の別の意図も透けて見えます。
中国には悪名高き「民事訴訟法231条」があります。これは民事訴訟を抱える企業の責任者を出国禁止にするというものです。たとえば中国で儲からなくなったといって、外国企業が撤退しようとしても、従業員から待遇面などで訴えられたら、企業トップや部門責任者は出国できなくなります。要するに、中国からの撤退を考える企業に対して、中国政府がさまざまな嫌がらせ加え、身ぐるみを剥がすための法律なのです。
今回の外国人のランク付けは、ある意味ではこれと正反対にあるように見えますが、方向性は一緒です。つまり、中国にとって役に立つ、金儲けできる企業や人材を人質にするということです。
Aランク人材を中国に送り込んだ外国企業が、事業がうまくいかないということで撤退しようとしても、民事訴訟法231条で撤退できなくなる可能性があります。そもそもAランク人材ともなれば部門の責任者以上の地位でしょうから、その当の人物が中国に足止めされる可能性が高くなります。
一方で、Cランク人材は中国での居住を拒否されますから、その代わりに中国人を雇うしかなくなります。今回の外国人ランク付けは、中国人の雇用対策という側面もあると思われます。いわば「中国第一主義」でしょう。大卒者すら就職難に喘いでいるのですから、Cランク人材を排除して、その代わりに中国人を雇え、というわけです。
習近平国家主席は、1月のダボス会議でトランプ政権の保護主義を批判して、中国こそが自由貿易、自由主義経済のリーダーとなるとまで発言しました。そして中国は外国人投資家による中国市場へのアクセスを拡大して、高度で実験的な自由貿易圏を作るとまで宣言しています。ところが現状は、外国企業にとってそれとは真逆の政策が中国では次々と施行されているのです。
中国の主張する「自由主義」というのは、中国だけが「自由」なのであって、外国にとっては「不自由」を意味します。私は以前から繰り返し主張していますが、中国と他国では言葉の定義がことなります。そして「言葉の定義を決めるのは自分たちだ」と主張するのが中国なのです。
たとえば、中国政府の代弁者となる外国人は中国から「友好人士」と呼ばれてきました。中国に都合のいい歴史観は「正しい歴史認識」とされます。「友好」「正しい」の定義とその解釈権はすべて中国が決める、というスタンスです。