南シナ海問題、解決か?日本ではほとんど報道されていない「事実」

 

静観する各国

こうした状況で、いち早く日本とフィリッピンの2国だけが、今回のアメリカの艦船派遣への支持を明確にした。アセアンやEUをはじめ、他の国々は態度を明確にせず静観している状況だ。

どの国の経済も中国依存が深まり、中国との関係を悪化させることは回避しなければならないが、アメリカとの関係も悪化させることはできない。このような板挟み的な状況のため、どの国も態度を明確にせず静観している。

拡散するジョージ・ソロスの警告

一方、海外のサイトでは著名な投資家のジョージ・ソロスが今年の5月23日にした発言が注目されている。それは、第3次世界大戦の警告であった。

ソロスは、中国が輸出でなく内需に経済の主軸を移したとき、第3次世界大戦のシナリオは現実のものになるとしている。そのとき中国政府は、政権を維持するために外部に紛争を必要とするはずだという。もしこのとき、中国がロシアと政治的、軍事的同盟を結ぶと世界大戦は現実のものとなるだろうと警告していた。

いま中国とロシアは、中ロ同盟と呼ばれるくらい近い関係にある。今回の米艦船派遣で、第3次世界大戦へと向かうシナリオが、現実になりそうだというわけだ。

アジアにおけるロシアの拠点、ベトナム

他方、日本の安倍政権は、日米とアセアン諸国、ならびにオーストラリアやニュージーランドなどの周辺諸国が協調して、中国を封じ込めることを基本政策にしている。そのような安倍政権から見ると、米艦船が中国が領有権を主張する人工島の海域を通過することは、周辺諸国が中国封じ込めで一致団結する絶好の機会になると見ているはずだ。これが安倍政権が、アメリカに対する支持を真っ先に明確にした理由であるに違いない。

だが、南沙諸島の領有権問題の当事国であるマレーシアやベトナムにしても、中国への依存を経済的に深めており、中国との関係には最大限気を遣わざるを得ない状況だ。

ましてやベトナムは、アジアにおけるロシアの最大の拠点である。日本ではまったく報道されていないが、今年の6月30日、ロシアはベトナムに最新鋭の潜水艦を引き渡したばかりだ。これは、2009年に締結した5艘の最新鋭潜水艦の売買契約に基づいた引き渡しだ。

いまシリア空爆で、ロシア軍とロシア製兵器の優秀さが大変に注目されているが、ベトナムの兵器体系は基本的にロシア製である。ベトナムはロシアから最新鋭の「クラブ巡航ミサイル」を50基購入しており、すでに28基がベトナムに引き渡された。これらのミサイルの照準は、いざというときの抑止力として中国の各大都市に向けられている

中東、欧州、中央アジアなどでは中ロ同盟が強化されつつあるが、こと東南アジアに関しては中国とロシアは一枚岩ではない。ベトナムが中国と敵対的な関係にはなればなるほど、ベトナムに兵器を提供しているロシアの軍事的な影響力が増すという関係にある。するとロシアの影響力は、カンボジア、ミャンマー、ラオスなど他の東南アジア諸国へと拡大する可能性が出てくる。

他方アメリカは、ロシアを最大の仮想敵国として見ている。ロシアの影響力の拡大には非常に神経質になっている。そのような状況では、ベトナムと中国との敵対関係を助長するようなことはできない。結果的に、ロシアの東南アジアにおける軍事的な影響力を強化することになってしまうからだ。

ということでは、アメリカは安倍政権が望むような日米とアセアンが協力した中国封じ込め政策を実施することは実質的にできないし、その意図もないと見たほうがよいだろう。

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