まのあたりにすると、静物であるはずのバットが、釘を打たれることで痛みとともに命を宿して獣性を帯び、どくどく怒張しながらもんどりうっている錯覚をおぼえる。
なんてバット、いやバッドテイストな。
「これで頭にジャストミートされたら、僕の脳みそは左中間を駆け抜けるな」と、とびきり危険な珍プレー荒プレーを想像してしまう。
反面、これほど鬼気みなぎるオブジェでありながら、どこか懐かしく、とぼけたユーモアもまとっている。夕焼け映える河川敷で学園の番長どうしが対峙し、10円ハゲの子分たちが手に手にかまえる、脅しの効果こそあっても実効性の薄そうな駄兵器。そんな昭和学園マンガのワンカットのような、牧歌的な茶目っ気も魅力の一面だと思えた。
そういえば、ジャンルは違うけれど、ギャグ漫画「ダメおやじ」でオニババが夫のダメ助を殴る際に使う武器こそが、僕が初めて見た釘バットだった(夫を殴る武器、という設定もいま考えたらすごすぎるが)。
このように、ここに列する釘バットの数々は殺気とほのぼのの両面が見てとれるスイッチヒッターな芸術なのだ。
そしてなにより「バットに釘を打つから釘バット」という圧倒的な制約があるにも関わらず、すべての作品の表情が異なるという、作者の創意工夫の快打製造ぶりに驚かされる。
木製があれば金属バットもあり、ハロウィンカラーなど色あいもとりどり。
叩きこまれた釘のタイプも多種多彩で、15メートルにも及ぶ有刺鉄線を巻きつけたよりいっそうデラックスアウトなものまで。
釘とバットの組み合わせで、これほど飛距離の異なる表現ができるのかと感動しきり。
しかもこの釘バッ展にひしめく造形作品は、観覧者がグリップ部分を実際に握って「体感」できる。
ずしんと手のひらに沈むヘヴィなタッチの釘バットは地獄の鬼の鉄棒を思わせ、そうかと思えば軽やかでシャープな作品を握ると聖剣を手に入れたかのような万能感が胸の内から湧いてくる。
見た目だけではなく、つかんだ際に芽生える感情が異なるのも、不思議にときめいた経験だった。