再臨の諸葛孔明、『中国4.0』を語る
おくやまです。
おかげさまでルトワックの『中国4.0』が発売以来大反響です。
ロシア政治経済ジャーナルの北野さんをはじめ、
実に多くの方におすすめ(もしくは批判)の言葉をいただいております。本当にありがたいことです。
さて、訳者としてこの本の内容について、あらためて話をしておかなければならないと思ったのですが、
今回触れておきたいのは、私も最後の解説の章で書ききれなかった、
ルトワックの戦略家の思想においてカギとなる概念のことです。
ルトワックは『中国4.0』の中で、戦略家としての心得とでもいうべきアイディアをいくつか出しております。
そのうちの一つは、
「中国の人民解放軍はハッタリだけの張子の虎では?」
というテーマについて、
私がルトワック本人に直接ぶつけて聞いた時に、彼は戦略家の心構えとして教えてくれたことです。
それは、
「相手の戦力を額面通りに受け取って、粛々とそれに対抗できるような方策を進言する」
これをルトワックは
「防衛保守(defence conservative)という立場だ」
と述べていたのですが、たしかにこうしておけば、相手を見下して準備不足になるリスクは避けられますし、
かと言って逆に本当に相手が「張子の虎」で、結果的に戦闘などで圧勝しても、少なくとも誰も困る人はいないわけです。
そういう意味から、相手の戦力を額面通りに受け取って、
それに対して保守的に準備を整えておく、というのは戦略家としては正しいあり方だなぁと思った次第です。
そして、ルトワックのもう一つの大事なアイディアがあります。
それが、
「発明」
というもの。これだけ聞くと、一体何のことやらさっぱりわからないですが、これは戦略を考える個人や集団(もちろん、国家も含まれます)が陥りやすい、ひとつの大きな(そして致命的な)間違いのことです。
どういうことかというと、
われわれは自分が対峙している相手の予測不可能な将来の姿について、自分たちに都合のよい希望的観測をベースとした勝手な思い込みを抱いてしまいやすい、ということです。
実例としては、ルトワック自身が『中国4.0』の中で述べているように、
「尖閣事案でもアメリカは対処してくれる(だろう)」
つまり、日本は「アメリカは尖閣まで守ってくれる」という、自分にとっての都合の良いアメリカを想定(発明)している、ということになります。
もう一つわかりやすい例は、
アメリカが「中国は経済発展していけば、いずれ民主化する」という誤った想定をして、自分たちに都合のよい中国を「発明」していたことでしょうか。
そういう期待があったからこそ、
アメリカは90年後半に中国の世界貿易機関(WTO)
への加盟を、かなり強力にプッシュしたわけです。 今夜の放送でもこれに関することに触れますが、
中国が偽造品や違法コピーなどを取り締まることなく、その製造数が世界レベルでも圧倒的になっているということを問題視した記事が出てきました。
これなども、その原因が西洋側の「発明」にある、ということなのです。
どういうことかと言うと、西洋の国々は、中国が経済発展するにつれ、自国の製品の登録商標を守るために偽造品や違法コピーをある程度諦めるようになるだろうとタカをくくっていたわけです。
しかし、どうやらそのような予測が間違いであったということに最近気付き始めている。
つまり、西洋は「将来的に著作権を守るようになる中国」を「発明」したということです。
もちろんこのような分析に対して、この記事では
「そんなことはない、まだ先にはどうなるかわからない」
という点も(とりあえず)指摘しております。
しかし、戦略立案の際には、このような希望的観測は極めて危険なものです。
まず最悪の事態を想定して、それに備える。
われわれは、ルトワックの言うような極めて保守的な想定を前提にして、努めて現実的な対応策を練る必要があるのです。
image by: Hung Chung Chih / Shutterstock.com
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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