スイスで否決されたベーシックインカム、日本だと1人あたり月5万円?

2016.06.14
by gyouza(まぐまぐ編集部)
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収入に関係なく、一定の額を毎月全国民に支給するというベーシックインカム(BI)制度が各国で議論されている。6月初旬には、導入の賛否を問う国民投票がスイスで行われ、否決されたものの大きな話題となった。既存の制度の問題点を是正する策として、多くの国々で注目されている。

各国がBI導入を検討

エコノミスト誌によれば、1797年にイギリスの哲学者トマス・ペインによって、一律15ポンドをすべての人に支給するというBIが提唱されている。以後BI導入は検討されたこともあったが、一般的に多くの福祉国家では、年齢や不運から仕事のない人への生活保障としてのプログラムが構築されてきた。しかし、ここ10年の間に、労働者の生活水準の向上に十分なだけの賃金の上昇がないという不安により、BIへの関心が高まってきたという。

スイス以外にも、カナダ、オランダ、フィンランドなど、数ヶ国でBI導入が検討されている。フィンランドでは、来年から1万人を対象に、1ヶ月550ユーロ(約6万7000円)を支給する実験が2年間の予定で開始される。政府はすでに2000万ユーロ(約24億円)を費用として準備しており、既存の公的扶助からも合わせて拠出を予定している(news.com.au)。

長所はあるが、財政上は非現実的

ブルームバーグのコラムニスト、メーガン・マクアードル氏は、BIは既存の福祉制度の問題を直すためのアイデアだと説明する。例えば、アメリカにおいては、フードスタンプ(食品と交換できるクーポン)、医療手当、現金補助が支給されるが、食費を減らして車の修理に使いたいという貧しい人にフードスタンプが役に立たないように、さまざまなミスマッチが起きていると指摘する。また、所得制限があるため、働き過ぎると生活保護を失うという問題もあり、収入にかかわらず単一の支給がすべての人に行き渡るBIが解決策になるというのが、賛成する人々の意見だという。

しかしマクアードル氏は、BIの議論が「使い物にならない手当」と、「採用するには費用が高すぎる手当」の選択になってしまっているという。例えば、1ヶ月1人あたり1000ドル(約10万7000円)の給付では、貧困ラインにかかってしまう。だが、アメリカで全国民に年間1万2000ドル(約128万円)を給付した場合、総額2.7兆ドル(約290兆円)が必要となり、国家予算の70%に匹敵するという。これでも負担は莫大だが、さらに増額となれば大増税必至で、経済に与える影響は大きすぎる。結局額を低くすることになるが、それでは現行制度の改善とは程遠く、現実的ではないと述べている。

当分労働は必須。でも時代にあった制度を

エコノミスト誌が紹介したOECDの調査をもとにすると、日本では医療給付以外の所得移転をすべてBIにまわしたとしても、年間1人5700ドル(約61万円)しか支給できない。もっとも支給額が大きくなるルクセンブルグでも、年間1人1万7800ドル(約190万円)なので、BIを導入しても、ほとんどの国では働かざるを得ない。

フィンランドのBI実験を行う機関、KELAのオッリ・カンガス氏は、実験の目的は、労働意欲を削ぐものをどのようにして減らす、または排除するかを探ることだといい、BIプラス労働を前提としている。生活保護を受けている者が仕事に就いた場合、働いたほうが損になってしまうこと以外にも、フィンランドの場合は、保護費の受給申請に時間がかかるため、失業者が短期の仕事に就くと、仕事が終了した後に生活保護がもらえない期間が出てしまい、短期労働をやりたがらないという問題もあるという。さらに、ゼロ時間契約、新しい形態の自営など、近年「不安定な仕事」が増えており、変化する労働市場への対応も迫られているとのことだ(news.com.au)。「BIが労働意欲を削ぐ」という意見もあるが、フィンランドの場合は、BIが労働意欲を高めることを期待しているようだ。

BIで「働かなくてもお金がもらえる」というユートピアは、残念ながら今のところ実現しそうにない。しかし、格差が広がり、労働の形も変わるなか、古く問題点を抱えた制度を見直すという点で、BI導入の議論は今後も続きそうだ。

(山川真智子)

image by: Shutterstock

 

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記事提供:ニュースフィア

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