集団的自衛権、安倍政権はなぜそこまで急ぐのか?

 

それにしてもなぜここまで急ぐのか?

だが、このように「集団的自衛権」がアメリカの圧力の産物だとしても、なぜ安倍政権がこの成立をここまで急ぐのか説明にはならない。たっぷりと時間をかけ、憲法に違反しないように行う方法はいくらでもあったはずである。

たとえば、2004年に成立した「イラク特措法」がある。この法律は期限が決まった時限立法で、戦闘が行われていない地域に、「人道支援活動」を実施する目的で自衛隊を派遣するものであった。

もちろんこのときも議論はあったが、これが違憲であるとする議論はほとんどなく、国民的な反対運動は起こらなかった。「人道支援活動」の一環として戦闘が行われていない地域に自衛隊が派遣されたので、少なくとも建前は、憲法に禁止されている軍隊の海外派兵ではなかったからだ。これも「ジャパン・ハンドラー」などのアメリカからの要請であったことは間違いない。

もし「ホルムズ海峡の掃海艇派遣」と「南シナ海における中国の監視活動」の2つを要請されているのであれば、2003年の「イラク特措法」と同じく、期限が決まった時限立法とし、戦闘行為には一切かかわらないことを条件にした純粋な後方支援活動として、これらの地域に限定して実施する法律を成立すればよかったはずだ。そのような方法であれば、違憲となる「集団的自衛権」を持ち出す必要性はなかったはずだ。

ところが今回は、時限立法ではなく恒久法として「集団的自衛権」を成立し、世界のあらゆる地域に米軍と一緒になって自衛隊を派兵することを可能にしている。これは明白に憲法に違反している。このため多くの国民の怒りを買うことになったのである。

安倍政権はなぜあえてこのようなことを急いで行っているのだろうか? その本当の目的はなんだろうか?

「日本会議」の明確なアジェンダ

時限立法としてではなく、恒久法として憲法にからめて「集団的自衛権」を持ち出した理由は、安倍首相が現行の憲法で「集団的自衛権」を規定の事実にしてしまい、これによって、自衛隊を将来いつでも海外派兵できる「国防軍」にするきっかけにしたいという野心からではないかと見られている。

たしかに、安倍首相の個人的な野心が背景にあることは間違いないだろう。しかしながら、急ぐべき理由はこれだけではないことは、安倍政権の最大の支持母体である「日本会議」の明確なアジェンダを見ればだいたいはっきりする。

「日本会議」がどのような存在なのかは、第338回の記事に詳しく配信したので詳述はしないが、「日本会議」とは戦前をモデルにした憲法に改正し、「天皇制国家」の復権を目指す右翼的な組織が結集した一大プラットフォームのことである。

「日本会議」のサイトやその他の文書から、この組織は安倍政権こそ憲法改正を実現できる最後の機会ととらえていることが分かる。そのため、憲法改正は安倍首相の任期中になんとしてでも達成しなければならない最重要課題である。それには、2016年7月に行われる参議院選挙で自民党が3,000万票を越える得票で圧勝し、すでに自公が絶対安定多数の衆議院と合わせて憲法改正に必要な3分の2の議席を確保する。そして一気に憲法改正を実現するという計画だ。

安倍政権は、「日本会議」のこのアジェンダを念頭において動いていることは間違いない。とするなら、「集団的自衛権」の成立をことのほか急ぐ理由もこの辺にありそうだ。

憲法96条の改正

もちろん、参議院選挙で自民がたとえ圧勝したとしても、憲法改正のハードルは高い。憲法96条では、衆参両院の3分の2の賛成と、国民投票における過半数の賛成を必要とする。現在自民党は衆議院で291議席を獲得しているが、3分の2の317議席には届いていない。公明党の35議席を合わせると326議席となり3分の2に達するが、公明党が反対した場合、憲法改正の発議はできない。

そのため、憲法96条を先に改正して衆参3分の2の賛成が必要とする改革条件を緩和し、過半数の賛成があれば憲法改正を発議できるように変更することを狙っている。

いま参議院では、自民は242議席のうち115議席しか獲得していない。過半数にも届いていない。もし2016年7月の参議院選挙で自民党が圧勝して3分の2の議席数になれば、憲法96条の改正は容易に実行できる。それを実現した後、一気に憲法改正に乗り出すという意図だ。これが「日本会議」のアジェンダに沿った自民党のプランだ。

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