「和菓子のソニー」と呼ばれた銘店の三代目が感じる「危機感」

 

和菓子の未来を切り開く~若手女性職人の挑戦

芝田は、和菓子の将来に危機感も抱いていた。同じ菓子業界でも、洋菓子を作る職人、パティシエはいまや若者に人気の職業。それに比べて、和菓子職人を目指そうという若者は、どんどん減っているのだ。そんな中で芝田はある取り組みを始めた。

職人が和菓子の材料を延ばし、作っているのは花びら。これは工芸菓子と呼ばれている。工芸菓子とはお菓子で作ったいわば彫刻のようなもの。鳥や花などのすべてが、砂糖やモチ米の粉など、和菓子の材料でできているのだ。

叶匠壽庵の工芸菓子の第一人者が、職人歴50年の山川正(現顧問)。山川は1978年、パリの砂糖菓子博覧会で日本人初のグランプリを獲得。そのときの作品「金鶏と牡丹」は、世界の菓子職人から賞賛を浴びた。

芝田は工芸菓子に挑戦することで、若い人へのアピールにつなげようと考えたのだ。

目指すは4月下旬に三重県伊勢市で開かれるお菓子の全国博覧会。大会に向けて、中堅の職人と期待の若手職人からなる、専門のチームが編成された。

工芸菓子は全ての技法が盛り込まれています。麺棒で伸ばす、生地をぼかす、色を合わす。これをやることによって立派な職人に成長するんです」(芝田)

赤坂プリンス跡地に建つ「東京ガーデンテラス紀尾井町」。ここに去年オープンした叶松寿壽庵の新店舗がある。この店で人気を呼んでいるのが、和菓子としては珍しい実演販売。四角く固めたつぶ餡に水で溶いた小麦粉の生地をつけ、軽く焼く。「きんつば」だ。

これを焼いているのが、今回、工芸菓子のメンバーに呼ばれた江口綾(27歳)。江口はもともと画家志望だったが、和菓子づくりの魅力を知り、叶匠壽庵に入社してきた。

「工芸菓子はすごくやりたいと思っていて、郷の自然を感じるお菓子を作るのが、本社に帰ってからの目標です」

3月下旬、工芸菓子の制作チームに江口も合流した。指導するのは工芸菓子のレジェンド、山川だ。江口が教わっているのは花の制作。砂糖でできた材料で薄い花びらを作って貼り合わせ、形にしていく。山川の指導ででき上がったのは可憐な「野牡丹」の花だった。

4月下旬、三重県伊勢市。工芸菓子展に参加する叶匠壽庵の職人たちの作業が大詰めを迎えていた。ベテランに交じり、若手菓子職人、江口の姿も。山川の指導のもと、最後の仕上げを行っている。江口が初めてつくり上げた「野牡丹」を挿す。

ついに一ヶ月半かけた労作が完成した。作品名は「御花献上(おんはなけんじょう)」。開催地の伊勢にちなみ天照大御神に献上する花束をイメージした。これぞ和菓子の真髄だ。

「今まで和菓子をあまり食べなかった方にも、和菓子食べてみようかなと、触ってみたいなと興味がわいてもらったら、嬉しいなと思いますし、そう思っていただけるような和菓子づくりをしていけたらなと思います」(江口)

print
いま読まれてます

  • 「和菓子のソニー」と呼ばれた銘店の三代目が感じる「危機感」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け