購入履歴を国が記録…マイナンバー還付案、新聞各紙はどう捉えた?

 

バレバレの「マイナンバー普及策」なのに…

【朝日】の1面トップ、見出しは「飲食料品 2%分『還付』」「消費税10%時 自公了承」。

自民・公明両党は、2017年4月に消費税の税率を10%に引き上げるのに併せ、酒を除く飲食料品の2%分を購入後に消費者に戻す「還付制度」導入で大筋合意した。

制度案は、消費者が購入時にマイナンバーカードを店の機械に通すことなどで還付される金額が記録され続け、一定時期にまとめて登録した金融機関に振り込まれる形。還付額の上限を設けることで、より多く買った人には事実上の所得制限が掛かる方向で検討。税収減を抑える効果もあるという。

マイナンバーカードについては、個人情報の流出の恐れ、カードを読み込む機械の普及にかかる時間や経費の問題、カード自体の普及が増税時期に間に合わない心配などがある。

公明党の山口代表、井上幹事長、北側副代表が協議、「財務省案はよくできた制度」と理解を示した。

還付制度なので食料品をすべて対象にでき、線引きの必要がないこと。低所得者の負担も軽減できることなどで公明が容認。自民党も大筋で受け入れる考えという。

uttiiの眼

昨日の《読売》の記事と比較してハッキリしているのは、この仕組みに対して《朝日》は非常に好意的だということだ。課題については、《読売》が厳しい調子で指摘していた「カード読み取り機械の普及」には言及しているものの、《読売》が懸念を示していた「大規模店と零細店の格差拡大」のような論点は出さない。どちらが弱いものの味方なのかと言いたくなった。《読売》が指摘した、還付金受け取りについての行政の事務負担増大論も、《朝日》の頭の中では「銀行振り込み」で解決済み。どうせマイナンバーで口座も把握されてしまうので問題ないですよと言いたいのか、実にあっさりとした筆致。もう1つ、公明党が「よくできた制度」と言っているというところは、解説記事の内容紹介を兼ねて以下に。

解説記事「時時刻刻」の見出しは「増税分還付 公明乗る」となっていて、さらに「幹部『立派な軽減税率だ』」「協議暗礁 焦りの末」と続く。当初導入を目指していた「欧州型」の軽減税率が行き詰まった末の財務省案。《朝日》もさすさがに「マイナンバーカードをかざす必要があるなど、課題は多い」とするのだが、来夏の参院選でどうしても「軽減税率実現」を訴えなければならない公明党は、財務省案を「100点満点の制度設計は無理だ」として受け入れるという。

しかし、《朝日》の記者は頭の中がこんがらがっているのではないか。「欧州型の軽減税率とは異なり、『還付』という手間がかかる仕組みだが、酒を除く飲食料品はすべて対象になる」というのは記者の言う通りだが、その後にこんな文章が続く。「また、財務省にすれば、還付に上限を設けることで税収減は抑えられる。」

この表現は一体何だろう。こういう矛盾した文章を書いて平気でいられる神経が私には分からない。要するに、食料品に関しても、2%分の減税は行わないというのが結論ではないか。

さらに最後のパートでは、「『マイナンバー前途』多難」とか、「買い物 カード必須」「購入を記録 懸念も」と付け足し的に課題を並べている。ここに決定的な記述がある。

「マイナンバー法では、来年1月からマイナンバーのカードを受け取るかどうかは、本人の自由だ。内閣府の調査では、カードの取得を『希望する』との回答は全体の24.3%しかいなかった」。

この話、要はマイナンバーを徹底し、カードの所持を含めて国民に強制するためのツールにしようとしている、そういうことではないのか。税金をホンの少し安くする代わりに、個人個人の消費を含む行動記録を政府がその手に握りやすくなる。消費税増税はもちろん、マイナンバーにも基本的に賛成してしまっている《朝日》では、この点からニュースをすべて逆照射し、アグレッシブな見出しを1面に置くことなど、到底考えられないのだろうなあ。

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