安倍首相の自己都合解散が生んだ立憲民主という政権交代の受け皿

 

改憲発動には簡単には辿り着けない

安倍首相にとって残された使命は改憲しかない。そうであれば、改選前に自公で3分の2を確保し、維新などの協力も見込めた状態であった時に改憲発議に踏み出せばよかったわけで、その3分の2を失うリスクを賭けて解散に踏み切るのは、理屈の上では、改憲断念を宣言するのと同じだった。ところが安倍首相は「憲法に自衛隊の存在を明記する」ことを公約の1つに掲げ、選挙演説の中でも「日夜、北朝鮮の危機に対処し、災害救助でも活躍してくれている自衛隊が、『違憲』だと言われるような状態をきっぱりとなくさなければならない」というようなことを繰り返した。

ところが、その改憲の中身が、彼が5月に突如提起したように「9条1項・2項はそのままで3項付加」の加憲論なのかと問われると、安倍首相はそれは私(と言うけれども実は日本会議の伊藤哲夫氏)の案で自民党内でも公明党との間でも合意が成っているわけではないことを認め、さらに仮に自公すべてがまとまったとしても発議は与党だけでできるものではないことも認めざるを得ない。

しかも、自民党内にも「改憲発議を野党の少なくとも第一党との協力なしに運ぶわけには行かない」という当然の良識論がある中で、安倍首相と同工異曲の9条加憲論を持論とする前原誠司氏や改憲タカ派の小池百合子氏が相手なら与しやすしと思っていたところがその2人は自爆し、代わってまさに瓢箪から駒(瓢箪の細い口から馬が飛び出してくる)の例えそのままに立憲民主党が現れて改憲反対の野党第一党になってしまった。

それでも安倍首相としては、

  1. 年内に日本会議案を自民党案としてまとめさせる
  2. それを来年通常国会で両院憲法審査会での議論に委ね、与野党合意(なんて可能なのか?)による成案を得て
  3. 来年前半の通常国会会期中に3分の2を以て発議し
  4. 発議から60~120日以内に国民投票を実施することになっているので、早ければ8月、遅くとも秋までに、(失敗を避けるためには)出来れば衆議院解散と抱き合わせで行いたい

──と考えているのだろう。

ところがこの国民投票ばかりは、失敗すればお終いで、少なくとも数十年、一世代か二世代を経るまで改憲はできなくなる。最後は、安倍首相が自民党を打って一丸、結束させ、それこそ清水の舞台から飛び降りる覚悟で踏み切るかどうかだが、私は安倍首相にその力はないと見る。

だから、この総選挙で安倍首相の望む改憲は近づいたのではなく遠のいたのではないか。改憲がまとめきれない安倍首相は自民党にとって無用の存在でしかないから、この総選挙で来年9月の安倍総裁3選は近づいたのではなく遠のいたのではないか。

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