大国を甘く見るな。中露を「敵」に設定した米国防長官の無知

 

アメリカは、なぜ冷戦に勝てたのか?

これ、「予算増」のためにはいいでしょうが、これが本気の戦略だとしたらかなり問題があります。

少し、冷戦時代を振り返ってみましょう。第2次大戦で、アメリカは、イギリス、ソ連と共に、日本、ドイツを打ち負かしました。戦後は、共産ソ連が最大の脅威になった。そこでアメリカは、どう動いたのでしょうか? そう、敵だった日本ドイツ西ドイツと組んだのです。日本、西ドイツの経済復興は順調に進み、世界2位、3位の経済大国になりました。アメリカは、日本と軍事同盟を結んだ。そして、NATOをつくり、欧州諸国をがっちり取り込みました。

しかし、ソ連は意外と強く、60年代には、「アメリカやばいもしれない」と思われるようになった。そこでアメリカはどうしたか? 70年代初めに、共産中国と組むことにした。

アメリカは日本と組み西欧と組み中国と組んだ。これで、「ソ連包囲網」は完成しました。そして、ソ連は91年に崩壊。アメリカは、見事冷戦に勝利したのです。

ところが今は…

今のアメリカはどうでしょうか? 冷戦時代のアメリカには、「民主主義、資本主義を、悪の共産主義から守る!」という大義名分がありました。日本も西欧も、これには大賛成で、日欧米は心を一つにしていた。

今は? アメリカが、本当に中ロに勝ちたければ、まずやらなければならないのは、日本欧州との同盟関係をさらに強固にすることでしょう。ところがトランプさんは、「NATOは時代遅れだ!」「NATO加盟国はもっと金を出せ!」などといって、同盟諸国を怒らせたり、不安にさせたりしています。

もう一つ、中ロに勝ちたければ、中ロを分断することを考えなければならないでしょう。ニクソンとキッシンジャーは、中国と和解することで、ソ連を孤立させました。同じロジックで考えるなら、ロシアと和解して、経済力、軍事力共に世界2位の中国に対峙するべきでしょう。

ところがアメリカは今、「ロシアにさらに厳しい制裁を課そう!」ということで、「プーチンに近い新興財閥ブラックリスト」を作成している。2月には、新たな制裁内容が発表されることになっています。これを喜ぶのは習近平ですね。米ロの仲はますます険悪になる。中ロ関係はますます良くなる

まったく愚かです。新刊にも書きましたが、大戦略でもっとも重要なことは、「誰が敵なのか決めること」「誰が味方なのか決めること」です。「中国とロシアが敵です」というのは、いくらアメリカでも厳しすぎます。どちらか一国を選ぶ必要がある。「中国とロシア、どっちが最大の敵ですか?」と聞かれれば、「当然中国です」となるでしょう。何といっても、中国は、GDPと軍事費で世界2位である。ロシアのGDPは、世界12位で、韓国より少ない。プーチンのキャラで異常に目立っていますが、もちろん中国の方が脅威です。

こう考えると、アメリカがやるべきことは、

  1. 日本との同盟関係を強固にする
  2. 欧州との同盟関係を強固にする
  3. ロシアと和解して中ロを分断する

となるでしょう。その上で、インド、ベトナム、フィリピン、台湾などとの関係強化が重要になってきます。というわけで、「欧州戦線でロシアと戦い、アジア戦線で中国と争う」というアメリカの国防戦略は、かなりヤバいといえるでしょう。「軍事費増加」という目的達成には「よい戦略」なのかもしれませんが…。

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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