なぜ今オウム死刑一斉執行なのか?法務省がケリをつけた訳

 

大雑把にいうと、イスラム圏とアジアの多くは死刑存置国だが、民主主義的な先進国で死刑を廃止していないのは日本と、アメリカの50州中36州だけだ。1989年12月、国連総会で死刑廃止条約が採択されたさい、日本はアメリカ,中国などとともに反対票を投じた。

ヨーロッパでは、ほとんどの国で死刑は廃止され、EUの加盟条件にもなっている。今回の処刑について、EU代表部、EU加盟国の駐日大使、アイスランド、ノルウェー、スイスの駐日大使は、事件の被害者と遺族の苦悩を共有するとしたうえで「いかなる状況下での極刑の使用にも強く反対する」と日本政府に死刑廃止を訴える共同声明を発表した。

死刑制度の是非論もさることながら、オウム真理教事件の特異性と、今後への影響についても考える必要があるだろう。

オウム真理教が起こした最初の事件から30年近くを経て、しだいに世間の関心も薄れ、風化が進むなか、事件に関わった主要人物たちを抹殺し、口を封じることが、この社会にとっていいことなのかどうか、大いに疑問が残る。

死刑が執行された13人のうち、麻原彰晃、井上嘉浩を含む10人が再審請求中だったとみられる。かつて法務省は、再審請求中の場合、死刑執行にはきわめて慎重だった。しかし、いまは違う。

刑事訴訟法475条第2項にはこうある。

前項命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない

確定から執行までの「六箇月以内」に、再審請求手続き期間を含めない。これをどう解釈すればいいのか。

上川大臣は「再審事由の有無等について、慎重に検討し、これらの事由がないと認めた場合に初めて死刑執行命令を発することとしています。再審請求を行っているから執行をしないという考え方はとってはいません」と語った。

一連のオウム真理教裁判はことし1月に終結したが、被害者遺族はいまだ多くの「不可解」を抱えている。死刑執行を遅らせるための手段として再審請求を用いることはあるだろうが、精査すれば再審すべき死刑囚も何人かはいたのではないか。

検察ストーリーに都合のいい証言を繰り返し、他の被告との食い違いが目立っていた井上嘉浩も再審請求をしていたという。再審が実現すれば、井上が証言を覆すことも予想された。そうなると、死刑から無期懲役などへ減刑される者もいたかもしれない

井上の口封じで完全に幕を引きたいと考えたかどうかは知らないが、法務省が早くこの事件にケリをつけたかったのは間違いないと思われる。

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