イタリアの少年サッカーは朝練なし!育成スタイルに驚きの声

2018.09.03
by ニシム(MAG2 NEWS編集部)
イタリアの“どこにでもある街クラブ”フローリア2003年生まれチームのメンバーと親たち(撮影:宮崎隆司)イタリアの“どこにでもある街クラブ”フローリア2003年生まれチームのメンバーと親たち(撮影:宮崎隆司)
 

世界最高峰のリーグ・セリエAを要するイタリアサッカー。イタリアサッカー少年の練習たるや、さぞかし厳しいことだろうと想像してしまいそうですが、じつはその正反対なのだということを伝える本『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(宮崎隆司著)の電子書籍版がリリースされました。記録的な猛暑となった今夏、子どものスポーツと安全を巡る議論が沸騰する中、日本とイタリアのスポーツ教育についての考え方の違いをあらためて考えさせられます。

伊サッカー少年、驚きの練習スケジュールがこちら

この本で紹介されるイタリアの少年サッカーの活動状況がネットメディアを通じて報道されると、これに即座に反応したのが育成年代の指導者と学校の部活動を監督する教職員でした。例えば本書では、イタリア生まれ、イタリア育ちの著者の長男(2003年生まれの14歳)の1週間のスケジュールが紹介されています。

宮崎隆司『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社)

宮崎隆司『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社)

イタリアでは育成年代の練習は週2回(平日)、練習時間は1回90分が基本だ。週末はホーム&アウェイ方式のリーグ戦1試合を戦い、練習はしない。つまり、イタリアの一般的な子どもたちの活動ペースは「蹴球3日」である。
「蹴球6日」も珍しくなく、朝練や居残り練習もいとわない日本の多くの部活チームと比較すると、イタリアの子どもの負荷は圧倒的に軽い。
3カ月という長い夏休み期間中、ほとんどのイタリアのクラブでは、練習が1度も行われない。その間、よく遊び、よく眠るイタリアの子どもは、夏を境に見違えるほど身体が大きくなるケースが多いという。

宮崎隆司『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社)

宮崎隆司『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社)

プロの下部組織も練習量は控えめ

子どもに過度な練習をさせないイタリアの育成哲学は、プロクラブの下部組織にも共通している。「育成の名門」として知られるエンポリFCでも、13歳から15歳までの各カテゴリーの練習は週3日、練習時間は90分、長くても100分がリミット。「これに週末の試合が加わることを考えれば、これ以上増やすべきではありません」とエンポリFC専属フィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノ氏は言う。

ネット上では、「練習量が足りないからイタリアはロシアW杯に出場できなかった」「没落したイタリアに見習う点はない」といった反論も寄せられたが、イタリアは5月のUEFA U-17欧州選手権で準優勝を果たすと、続く7月のUEFA U-19欧州選手権でも決勝に進出。延長戦の末惜しくもポルトガルに敗れたが、「蹴球3日」の草の根に支えられたイタリアサッカーの未来が明るいことを印象付けた。

2017-2018シーズンのエンポリU-17指導スタッフ(撮影:宮崎隆司)

2017-2018シーズンのエンポリU-17指導スタッフ(撮影:宮崎隆司)

年会費が安い!相場は年間4万円代、13歳からは無料!

子どものサッカースクールに月額1万円以上の費用をかける例も少なくない日本の親からは、イタリアの少年サッカーの活動費の安さに驚きの声が上がった。
イタリアの一般的な街クラブの年会費の相場は300から350 ユーロ(約4万円から4.6万円)。つまり1カ月3500 円程度。これだけ払えば、誰もが毎週2回以上の練習と年間最低30試合のリーグ戦(ホーム&アウェイ方式)、さらにはリーグ戦終了後の各種大会に参加することができる。この年会費には保険代、登録料、ユニフォーム代も含まれる。なお、これはあくまでも12歳までの子どもたちの親が負担する費用。13歳以上になると選手の保有権をクラブが持つことになるため、年会費は無料になる。

sub5

予算が潤沢とは言えないイタリアの街クラブだが、そのほとんどが自前のグラウンドを持っている(撮影:宮崎隆司)

日本の子どもたちは果たして幸せなのだろうか…

大きな共感を呼んだのが、日本の育成年代で伝統的に行われる「走り込み」「筋トレ」といった指導状況についてレクチャーを受けたうえで、「過剰なトレーニングの弊害とは?」という著者の質問に答えたエンポリFC専属フィジオセラピスト、マリーノ氏の言葉だった。

「国ごとに文化も違えば、考え方、個々のトレーニング手法も異なります。ましてや私は日本の指導現場を目にしたことがない者ですから、そのサッカー環境について正確な意見を述べることはできません。ただ、こうして日本のトレーニング環境を説明してもらいながら私が思うのは、『それほどの量のトレーニングを毎日こなしている子どもたちは果たして幸せなのだろうか……』という疑問です。彼らはそれを自分の意思でやっているのでしょうか。それともやらされているのでしょうか。試合に出られない子どもたちは、いったい何をモチベーションにそれほどの距離を走っているのでしょうか。」

「1日に10キロも走る。 試合後にペナルティとして走らせる。 そのようなことが弊害とならない論理的な裏付けがあるなら、 ぜひ教えてもらいたい」。 エンポリFC専属フィジオセラピストのマリーノ氏は日本の育成年代の猛練習のあり方に驚きを隠せなかった(撮影:宮崎隆司)

「1日に10キロも走る。 試合後にペナルティとして走らせる。 そのようなことが弊害とならない論理的な裏付けがあるなら、 ぜひ教えてもらいたい」。 エンポリFC専属フィジオセラピストのマリーノ氏は日本の育成年代の猛練習のあり方に驚きを隠せなかった(撮影:宮崎隆司)

マリーノ氏の言葉の通り、文化の違うイタリアと日本を単純に比較することはできない。たしかに「よく休み、よく遊べというイタリアの文化は、日本流のよく働き、よく走れ」とは対極とも言えるものだ。しかし、子どもに決して無理をさせないイタリア人の「愛情と情熱」が、子どもの成長とスポーツ指導における安全を願う日本の親や指導者に、1つの新鮮な視点を与えてくれることは間違いないだろう。

イタリアの“どこにでもある街クラブ”フローリア2003年生まれチームのメンバーと親たち(撮影:宮崎隆司)

イタリアの“どこにでもある街クラブ”フローリア2003年生まれチームのメンバーと親たち(撮影:宮崎隆司)

 

Calcio_cover_H1

『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』
著者:宮崎隆司  発行:内外出版社
【Kindle】https://www.amazon.co.jp/dp/B07GZDFXDP/
【楽天Kobo】https://books.rakuten.co.jp/rk/e82e89f30b903737af4dcd095438db7f/

【著者】宮崎隆司(みやざき・たかし)

GERMOGLI PH:8-04-04 COLDOGNO VICENZA ROBERTO BAGGIO

イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア代表、セリエAから育成年代まで現地で取材を続ける記者兼スカウト。元イタリア代表のロベルト・バッジョに惚れ込み、1998年単身イタリアに移住。バッジョの全試合を追い続け、引退後もフィレンツェに居住。バッジョ二世の発掘をライフワークに、育成分野での精力的なフィールドワークを展開する。圧倒的な人脈を駆使して、現地の最新情報を日本に発信。主な著書に『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社、2018)、『イタリアの練習』(東邦出版、2009)ほか。サッカー少年を息子に持つ父親でもある。

print
いま読まれてます

  • イタリアの少年サッカーは朝練なし!育成スタイルに驚きの声
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け