5000万人分を流出のFacebookが苦しむ、情報共有と個人情報の矛盾

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海外のメディアのニュースを、日本のマスコミではあまり報じられない切り口で、本当はどういう意味で報じられているのかを解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。著者の山久瀬さんは自身のメルマガ内で、約5千人分の個人情報を流出させたらしいFacebookについて語っています。

情報共有と個人情報の矛盾に苦しむFacebook【海外ニュース】

An attack on Facebook exposed information on nearly 50 million of the social network’s users and gave the attackers access to those users’ accounts with other sites and apps that they logged into using Facebook.

訳:フェイスブックは5000万人近くの個人情報漏洩にさらされる。ハッカーがフェイスブックを通してネットにはいった人のアプリやサイトへのアクセスを可能にした。(CNNより)

【ニュース解説】

image by: Renata Sedmakova, shutterstock.comより

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Wallつまり「」。それは人と人とを隔離するもの。
ここにある写真は、エルサレムの壁です。パレスチナ系の人々とユダヤ系の人々とを分けて、ユダヤ系の人々の居住区を確保し守るために、長年にわたって建設されている壁の写真です。
同じ「壁」が今メキシコとアメリカとの間にできていることは周知の事実です。これは、不法移民の流入を防止するために、トランプ政権になってさらに国境警備を強化しようとして造られているものに他なりません。
しかし、「は長年にわたって人類にとって必要不可欠なものだったのです。ニューヨークにWall Streetという通りがあります。なんといっても金融街として世界的に有名になった通りです。このWall Streetの名前の由来は、そこに木杭の壁があったことによるのです。17世紀、まだニューヨークがニューアムステルダムといわれていた頃、そこに入植していた人々をネイティブ・アメリカンの襲撃から守るために、当時そこを統治していたオランダ人が壁をこしらえたのです。その位置が今のWall Streetとなりました。

今、インターネットの時代になって、人々はネット上にバーチャルな」をこしらえて、自らの利益や情報を守ろうとしています。このバーチャルな「壁」は今までの「壁」とはコンセプトが根本的に異なります。それは、「機能の壁」です。過去のように特定の民族や集団を守る「壁」ではなく、個人情報などの機密を維持したい人がそこに集合して同じ「壁」に守られているのです。そんな「機能の壁」をビジネスにすることが、新たなインターネット・テクノロジーの大きな進歩へとつながりました。

この「機能の壁」に欠陥があるとして、2016年の大統領選挙の時点で問題視されたフェイスブックに再び大きな欠陥がみつかったのです。「プレビュー」機能のソフトウエアに問題があったということですが、ヘッドラインのいう5千万人どころか、9千万人に影響がでたのではといわれています。

ネットへのアタックについて極めて過敏なのは日本です。また、ヨーロッパの一部の地域でも同様です。
問題はインターネットビジネスのメッカといわれるアメリカ。アメリカのビジネス文化は昔から問題がおきたらその都度それを修復し前に進むといったものでした。ですから逆に事前に問題を想定し徹底的にリスクを潰す行為は得意ではありません。壁を作るのは得意でも、壁を守るのは苦手というのが、今回の情報漏洩事件からもみてとれます。
しかし、日本の場合は準備に時間をとられすぎ、あまりにもがんじがらめに物事を進めるために、逆に想定外の事柄がおきたときには臨機応変な対応ができなくなるという弱点があることもよく指摘されます。

さて、話を戻すならば、「機能の壁」と「情報共有」との双方を同時に行うことが、現代の課題となっています。情報共有とは、特定の情報に対して不特定多数の人がアクセスできる仕組みへとつながります。これはネット時代の利便性を高める上で欠かせないことです。しかし、共有される情報へのアクセスは「機能の壁」によって守られなければならないというわけです。

バーチャルにしろ、リアルにしろ、人は現在最も「壁」を欲しています。
壁で守られていることが、人々に安心感を与えます。しかし、同時に「壁」によって隔てられていることから人々は疎外感も抱きます。安心感と疎外感の狭間を利用したビジネス、悪用したビジネスが横行するのも現在の特徴です。
そして、人が人を疎外するとき、それが偏見や憎悪につながることも、エルサレムのリアルな「壁」をみれば明らかです。

ヨーロッパは元々様々な騎馬民族がお互いを狙い合う社会でした。そもそも壁が必要な社会でした。さらに、そこにキリスト教がはいり個々人の信仰のあり方に長年こだわってきたことから、こうした壁を個々に持つことを必要とし、プライバシーという概念ができあがりました。プライバシーを保護することは、そのまま近代国家での人権の擁護へとつながったのです。それは、個々が自らの部屋や家屋のドアを閉める行為として育まれました。
同じ騎馬民族社会でも、中国などでは南の農耕文化と混ざり合い、信仰という意識もないなかで、城壁はあっても個々に壁を作ることはありませんでした。
この違いがアジアと欧米との意識の差となりました。
しかし、近年欧米の文化がアジアに影響を与える中、個々のドアを開けはなち紐帯を維持していたアジア社会が変化します。日本の場合、その変化が激しく、その激しさが故に逆にプライバシーに対して過去の日本にはなかったほどに過敏な社会へと変質しました。皮肉なことです。

わかりやすく書くならば、人は自分の部屋に戻りドアに鍵をかけると安心します。しかし、その安心は疎外を生み出します。もしドアの外に病む人がいて助けを求めても、人はドアをしめたまま、警察に電話をします。これが、現代社会の仕組です。明日自分がドアの外の人にならないという保証はどこにもないわけです。ネット社会では、そんな疎外感を解放しようと、様々な情報にアクセスし、バーチャルな空間で人々が繋がれるようなシステムを作りました。その代表がFacebookです。しかし、そのシステムは同時により強い施錠行為によって担保されなければならないというわけです。これが、現代人の「機能の壁」の創造へと繋がったのです。施錠の安心とそこから生み出される疎外、この人類の心の矛盾への有効な解決方法はないものか、今問いかけられているわけです。

そして「壁」への意識は、アジア各地でのみられるように、時とともに変化してきたのです。それが人類にとって良い方向なのかどうかは、未知のままといえましょう。

image by: Renata Sedmakova, shutterstock.comより
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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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