NHK「戦前最大の右派新聞」特番で知る、今の日本から感じる恐怖

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74回目の終戦記念日である8月15日の3日前にあたる12日、日本を戦争に駆り立てる一翼を担った右派メディア「日本新聞」を取り上げたNHKスペシャル「かくて“自由”は死せり~ある新聞と戦争への道~」は大きな話題となりました。番組に登場する、日本新聞から具体的に言論弾圧行動を受けた長野県の教師のエピソードの例をもとに、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者・引地達也さんが、次第に言論の自由がなくなる怖さと、メディアがそれを「無言のメッセージ」としてしか表現できない今の日本への危惧を語っています。

戦争への道を歩まされていった日本人の、声なき叫び

8月12日放送のNHKスペシャル「かくて“自由”は死せり~ある新聞と戦争への道~」は、戦前最大の右派メディア日本新聞」の1925-35年に発行された約3千日分が発見された、とし、日本が大政翼賛体制になっていく様を、日本新聞を通して示していく内容だ。
国家主義を取り上げるのは、その風潮が強まりつつ今にも続き、そして現政権の支持の背景をも透かす敏感な主題であり、その内容は細心の注意を払って整理された印象である。随所に気遣いもうかがわれる構成ではあるが、登場する遺族や関係者の語れない語りの連続が、伝えることの難しさも示している。
番組のキャッチコピーには「なぜ日本人は、戦争への道を歩むことを選択したのか」と疑問を提示しているが、無言の中で浮かび上がってくる事実は、声なき声の叫び、という異例のメッセージであった。

番組によると、日本新聞は治安維持法を制定した司法大臣・小川平吉が創刊、同志には大政翼賛会の中心人物で後の総理大臣、近衛文麿、日本での右翼の源流、頭山満など国家主義者が名を連ねていた。社説を担当する中谷武世は東大の先輩である岸信介との親交があったことも写真から示された。

創刊当時は、大正デモクラシーの全盛期で言論は自由な風潮にあり、国際社会との協調路線を進む浜口雄幸首相はロンドン海軍軍縮条約を締結、東大教授の美濃部達吉が天皇機関説を唱える時期である。日本新聞はこれを赤化と非難し、国粋主義を掲げ、言論で反対の論陣を張るとともに、東京駅で浜口首相を銃撃する国粋主義者と関係し、美濃部を糾弾する学者と関係するなどの行動を具体化していく。

特に番組で焦点を当てていたのが、当時、赤化の心配のあった長野県飯田市で音楽教師として自由な教育者であった人物を「教育」の名の下に仲間とし、日本新聞の中谷が直接訪問し、転向させ軍国主義者になっていく様子である。

月賦でピアノを買い、子供たちと歌い楽しんでいたある教師。その日記には、自由な教育に限界を感じ国粋主義に転向する心情が詳らかに書いてあった。時は大正デモクラシーから昭和恐慌となり、一気に人々の暮らしが冷え込む中で、テロ活動が活発化し、515事件へとつながっていく。「軍靴の音がする」社会を作り出したのは、もちろん政治と民衆が一体になった結果ではあるが、このようなメディアの影響も小さくない。
明治期に創刊された陸羯南の新聞「日本」も国家主義的な論調で発刊停止処分を受けるが、それはあくまで言論での話であるが、「日本新聞の直接的な行動はやはり異質だ。

放送後、ネットでは当時、大政翼賛会を肯定的に報道をしていたのは朝日新聞も毎日新聞も同様であり、今回のNHKは偏向しているとの指摘もあるが、朝日、毎日との明確な違いも言論以外の具体的な行動であり、番組はその実例として長野県飯田市の教師に焦点を当てたのだろう。

冒頭で示した声なき声とは、天皇機関説を唱えた美濃部達吉を攻撃した学者の自死とその息子の表情である。この日本新聞と関わっていた学者の息子は、父が語ることがなく、死んでしまったことで、自分も父の死を真剣に考えなかったという。その戸惑いの苦悶するような表情が痛々しい。それは無言の叫びである。

さらに長野県飯田市で音楽教師から日本新聞の影響を受け軍国主義に転じた元教師の日記が、終戦前後の数ページが切り取られなくなっている事実も強い印象を与えた。その破かれたページを指先でなぞりながら「どうしてだろう?」と父の心情を深慮する息子の姿に戦後は終わっていない、との訴えがにじみ出てくる。

一人ひとりの戦争は残された者にも苦悩を与える。
戦争の影は生死をも超えて重い。
広島、長崎、そして終戦。日本の風物詩である8月ジャーナリズムは、いくつかの良質なもののみが、あの日から遠く来た私たちに新鮮な響きを持って歴史から現代への視座を与えてくれるが、ますますその質が求められている。

image by: (Unknown) [Public domain], via Wikimedia Commons

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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