「安定の象徴」とも言われる公務員ですが、非正規の地方公務員が増加している事実をご存知でしょうか。彼らは平均年収207万円、実に正規雇用の3分の1という低賃金で、人手不足の現場を心身ともに疲弊させながら支えているとのことなのですが、ならばなぜ「正規雇用公務員」を増やせないのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』でその原因と、彼ら「下級公務員」の実態を記しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年10月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
上級官僚と下級公務員
非正規の地方公務員が11年間で4割増加し、全体の5分の1近くになっていることがわかりました。一般企業同様、非正規の公務員の賃金は低く「正規雇用の3分の1」。正規の地方公務員(一般事務)の年収は平均660万円であるのに対し、フルタイムの非正規(特別職非常勤)は207万円程度です。
しかも、退職金を支払いたくないがために(非正規には支払われる)パート化する動きもあるというのですから、穏やかではありません。
報道によれば、兵庫県洲本市は今春、フルタイムの非正規約130人の勤務時間を1日当たり15分間縮め、香美町も事務補助員ら100人をパート化したそうです。
もっとも地方公務員というと「役場で座っている人」をイメージするかもしれませんが、その多くはヒューマンサービスに携わる人たちです。
児童相談所の職員や、生活保護者の就労支援などを行うケースワーカーさん。小中学校の臨時教員や保育士さん、消費者センターや女性センターの相談員なども地方公務員です。
少子高齢化で教育・子育て分野のサービスが年々増加しているので、ヒューマンサービスの現場は慢性的な人手不足です。しかしながら、正規職員の定数は決められているので、不足する人員は非正規で補うしかない。つまり、「市民生活を支える現場」では、低賃金の非正規の公務員の基幹化が進んでいるのです。
例えば、児相の虐待相談対応件数はこの10年で10倍以上増加している一方で、人員は2.5倍程度にしか増えていません。低賃金で生活は苦しい上に、人手不足の現場で心身ともに疲弊する。スキルも経験も必要不可欠な現場が、ヒューマンサービスに関わる人たちの「人の役に立ちたい」「困っている人の力になりたい」という気持ちだけで回っているのです。言葉は悪いですが、いわば「やりがい搾取」。「私たちの生活」に必要不可欠な現場は、「自分たちの生活」を犠牲にしている人たちで成立している。なんともやりきれません。
そもそも日本の公務員は、他の先進国に比べて人口当たりの数が少なく、もっとも多いフランスの3分の1、英国の約半分です。
「準公務員(みなし公務員)が多いのでは?」との指摘もありますが、独立行政法人、第3セクター、公益法人などの外郭団体を加えても低いとされています。
実は、戦前の日本は官僚の政治的権力が強い「官僚天国」だったため、他の先進国に比べ公務員の数が多くなっていました。その結果、財政赤字が深刻化。そこで公務員の数を減らすことでコストを抑え込んできたという歴史があります。
その後も、業務の効率化ために人員を削減。民間など外部に業務を置換しやすい比較的賃金の低い部門の削減を優先的に行ってきたため、給与水準の高い職員だけが残ることになり、今の「公務員のカタチ」ができあがったのです。
いっそのこと高級官僚の賃金を下げ、現場の非正規の賃金をあげる法案を作って欲しいところですが、公務員の賃金を決定するのは人事院という、これまた中央に近い人たちなので全く期待できません。
今回のような「リアル」を知るたびに、私たちの知らないところで「人の選別」が行われていることを痛感させられます。
みなさんのご意見、おきかせください。
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※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年10月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。