【書評】コンピュータが人間を超えたら?養老孟司先生が神回答

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コンピュータが人間の能力を超える「シンギュラリティ」に対する不安の声が高まっていますが、果たしてそのような状況は起こりうるのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんがレビューしているのは、そんな疑問に対する「明快な回答」を含む、養老孟司氏のインタビューをもとに構成された書籍。現代の知の巨人の一人・養老先生の「頭の中」を垣間見られる貴重な一冊です。

偏屈BOOK案内:養老孟司『猫も老人も、役立たずでけっこう』 

81S0x-RvL0L猫も老人も、役立たずでけっこう
養老孟司 著/河出書房新社

養老孟司先生が好きなことを言いたい放題。猫(名前:まる)の写真が37枚も。いつもの文体とちょっと違うような気がしたが、最後に種明かしがあった。この本は、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」(NHK)の「養老センセイとまる」と、特別編「養老センセイとまる 鎌倉に暮らす」の撮影インタビューをもとに構成されたものらしい。先生のおしゃべりを、誰かがテキスト化したものか。

なぜ80歳になっても、飽きもせずに虫(とくにゾウムシ)を見ているのか。お金には全くならないし、尊敬もされないけれど、個体の違いがわかる、つまり「発見」があるからだという。発見があると、見える世界が変わる自分が生きていることをしみじみ実感する。だから先生は、一生かけて虫を見る。

コンピュータで済ませられるものはそうすればいい。現にそうなっているものの典型が医療だ。医師は患者の顔を見ない。検査結果しか見ていない。必要なのは患者に関する情報であって、本人はいらない。「CTやMRI検査をしますよね。あれはX線の透過度が数値として出てくる。つまり、患者の身体を情報に置き換えているんです。数字をそのまま出しても医者がわからないから、画像にしているんですよ」。患者(人間)そのものはノイズなのだ……。

先生はおっしゃる。

それがわかっているから、コンピュータが人に置き換わるなんていう心配をするんですね。コンピュータ自身が自分より有能なコンピュータをつくって、人間がどんどんいなくなっていく。コンピュータが人間の能力を超える技術的特異点を〈シンギュラリティ〉と言うんですが、実のところ、何がいいか悪いかなんて、コンピュータにわかるわけがないんです

 

時々、「そんな世界になったらどうすればいいんですか?」と聞かれるから、「そんなもの、コンセント抜けばいいでしょう」と答える。すると、「でも先生、自分で電源を入れるコンピュータが現れます」とくる。何を馬鹿なこと考えてるんだって思いませんか。だったら、そういうコンピュータをつくることは犯罪だと決めておけばいい。違いますか?

……漫才だよ、こりゃ。

人を見れば、顔、体つきなどみな違っている。それはまぎれもない個性である。

ところが、多くの人が、個性とは心だと思っている。心が生み出す、人と違った考え方や行動を個性だと勘違いしています。つまり、意識にこそ個性があると信じている。私だけの思い、私だけの記憶なんて言いますが、そうしたものは他人にとって意味のないものです。

∴(ゆえに)心や頭に個性なんかない。納得。

今は二人に一人がガンの時代と言われているが、別にガンが増えたわけではない。年寄りが増えたのだ。長生きすると老化が進み、免疫力が落ちる。ガン細胞は誰にでもある異物であり、日々、免疫は胎内にあるそれを排除しようとする。だから、免疫力が弱ってくるとガンが発症しやすくなる。分かりやすい。

放射線治療でなぜガンが治るのか。放射線があたるとガン細胞が壊れる。そうすると、免疫が異物をはっきり認識するようになるからである。だから、試験管の中ではガン細胞に放射線をあてても、ほとんど死なない。そこには免疫がないからだ。わかりやすいんだよな~、養老先生のお話。先のことは誰も分からないが、唯一確実なのは、「全員100%死ぬ」ということである。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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