アベ友の影、再び。首相に「宇宙作戦隊」を作らせた財界人の実名

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2019年12月に新設されたアメリカ宇宙軍と、安倍首相がそれを追うように、航空自衛隊内への創設を発表した宇宙作戦隊。その目的は宇宙空間での中国の脅威に対抗するためとされていますが、識者はこれをどう見るのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは今回、自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、「酷い時代錯誤」と一刀両断し、そう判断する理由を詳述しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年1月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

日米同盟で「宇宙・サイバー空間」への中国進出を阻止する?──多国間のフラットなルール形成を目指すべきなのに

米国発で日本にも蔓延する「中国脅威論」の最新バージョンの舞台は、「宇宙・サイバー空間」である。

トランプ政権は19年12月に、空軍の宇宙関係部隊1万,6000人を切り離して独立した「宇宙軍」を新設し、軍事衛星の運用・防衛などを専門に担わせることにした。独立の「軍」としては、1947年に陸軍航空隊を切り離して「空軍」を創設して以来72年ぶりの新設。陸海空の3軍、海兵隊、沿岸警備隊と並ぶ「第6の軍」となるわけで、トランプ大統領の力の入れようが分かる。12月20日に行われた発足式でトランプは「宇宙空間は新たな戦闘領域だ。我々が宇宙空間を主導していくのだ」とブチ上げた。

これを受けて、トランプの追随者である安倍晋三首相は、馬鹿げたことに、早速に20年度に航空自衛隊の傘下に「宇宙作戦隊」を発足させ、米宇宙軍の言わば下請けとして地上レーダーなどを通じた衛星監視に取り組むことにし、その予算を計上した。

このような動きは、言うまでもなく中国の宇宙進出に対抗しようとするもので、今年1月1日付毎日新聞の第1面左肩から第2面の全頁を費やした新春大特集の見出しを借りれば、「中国先行に危機感/月面、覇権争いの最前線」という日米政府の現状認識の結果である。しかし、問題をこのように、宇宙でも覇権争いが激化しつつあるかのように捉えること自体が致命的な間違いで、すでに南極大陸がそうであるように、北極海も、海洋とその深海底も、漁業資源も、大気・気象も、宇宙も月面も、人類普遍の共有資産として、いかにして共同で調査・研究・進出・活用を進めていくかの多国間のルール作りを進めることが、21世紀的な国際社会のテーマである。

そうであるのに、米国や日本が力尽くで様々な領域から中国はじめロシアやその他の新興勢力を排除し、一方的にその運営ルールを決定する権利があるかのように振る舞おうとしていて、これこそが酷い時代錯誤である。

お月様を軍事利用するなんて

上記の毎日の見出しに「月面、覇権争いの最前線」とあるのは結構ビックリで、え?月はいまそんなことになっているのか!と怯えてしまう。

しかし、考えてみると米国の宇宙開発は初めから、誰かに後れを取るのではないかという強迫観念の下で進められてきた。1961年4月に旧ソ連がボストーク1号を打ち上げてガガーリン少佐による人類初の有人宇宙飛行を実現したことに打ちのめされたケネディ大統領が、その翌月に「何でもいいから、追いつき追い越せ」と叫び立ててアポロ計画をスタートさせ、68年の11号目にしてようやくアームストロング船長の人類初の月面着陸が実現した。その後も5回、月面着陸に成功させたものの、それで情熱を失ったのか、NASAの予算も大幅に削減されてアポロ計画は72年に立ち消えとなった。

ところが、その間に着々と宇宙技術を積み重ねてきた中国が、19年1月、無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」を月の裏側に着陸させるのに成功したことが、米政権中枢にパニックを呼び起こした。嫦娥とは「絶世の美人」という意味である。月の裏側は地球から見て常に裏側であって、そこへは電波が届かない。なのにそこへ人類初の着陸を成功させたということは、中国が、米露と並ぶか、その点だけに絞れば米露もかなわない宇宙開発最先端に躍り出たということを意味していた。

そこで、正常な頭脳の持ち主が考えるのは、その中国を含め米露欧日などで、改めて21世紀の月面をはじめ宇宙開発やそのための人工衛星管理について、国連ベースが妥当だと思うが、宇宙の軍事利用禁止や、共通の規範とルールを作るためのパネルを立ち上げて、剥き出しの利害争いに突入することを予め回避することである。

しかしトランプ政権の幼稚な思考はその方面には向かず、「月の裏側から地球にミサイルを放たれたら、既存のミサイル防衛システムでは対応できない」とかいった幻想的な世界に突き進んでしまう。確かに、中国が誰よりも先に月の裏側に到達したということは、純理論的にはそこにミサイル基地を設営して地球を狙うという可能性がないとは言えない。しかし、考えてもみてほしい、中国がいかに邪悪な意図を持った国であったとしても、現在すでに米国全土もハワイもグァムも属国=日本も、瞬時に壊滅させられるだけの長中短距離ミサイルのシステムを保有しているというのに、何で天文学的に莫大な費用を投じて月の裏側から地球上の米国にミサイルを撃ちたいと思うのだろうか。

お月様を軍事基地にして地球上の敵を攻撃しようなどと、誰も考えていない。が、それに怯えてトランプは「宇宙軍」を創始し、安倍首相が即座に追随して「宇宙作戦隊」を発足させる。頭がおかしい人たちである。

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