ウイルス蔓延は大規模テロと同じ。危機管理のプロが3つの提言

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危機管理の専門家としての立場から、新型コロナウイルスの問題についてさまざまなアイデアを発信している軍事アナリストの小川和久さん。今回、自身が主宰するメルマガ『NEWSを疑え!』では、新たなウイルスの蔓延は奇襲的な大規模テロを受けた状態と同じであるととらえ、対策においてもテロへの備え同様3つのアプローチが必要だと訴えています。

テロ対策から新型肺炎をとらえる

いま、新型肺炎(新型コロナウイルス感染症)について色々な角度から眺め、考えを整理しているところです。まず、今回の新型肺炎は各国とも全土が同時に奇襲攻撃を受けたような状態ですから、奇襲攻撃の極致でもある大規模テロへの備えを当てはめて考えてみたいと思います。

テロ対策を考えるとき、まず第1に、テロリストは100%の主導権を握っているという点を肝に銘じなければなりません。いつ、どこで、何を目標として、どんな方法で実行するかは、すべてテロリストの胸先三寸にかかっているからです。そして、攻撃される側は常に不意を衝かれることになります。だからこそ、2001年9月11日の同時多発テロのように、米国のような超大国を少数の集団が震撼させることが可能になるのです。感染症も、まさに同じです。

これをみれば、テロ根絶に特効薬などないことがわかると思います。それを前提としたテロ対策の基本は、奇襲攻撃を受けても被害が局限されるように備え、そのことを通じてテロに走っても無駄だということを知らしめることによって、テロを抑止することを最優先する一方、有効なテロ対策を不断に開発し、テロの原因を取り除く取り組みを愚直に推進し続けるしかないのです。新型肺炎も、感染力を上回る備えと対策が収束を早めるのです。

過去30年、私が提唱してきたテロ根絶のための思想は、医学用語を借りて表現すると、公衆衛生学的アプローチ、予防医学的アプローチ、対症療法的アプローチです。

1つ目の公衆衛生学的アプローチは、伝染病の発生を防ぐために蚊やハエを駆除するなどの環境の改善が図られることを危機管理にあてはめ、内戦やテロ、そして感染症が生まれる原因を取り除いていこうという考え方です。

世界から内戦やテロ、感染症が根絶されない背景には、貧困や差別、民族対立といった構造的問題が存在しています。そうした問題が世界から一掃されるように、日本は政府開発援助(ODA)にしても明確な投入の構想を描き、効果的な手段を講じていくのです。この対象には大量の移民を抱える国々も含まれます。

2つ目の予防医学的アプローチは、世界にはどのようなテロリストやゲリラのグループ、そして感染症があるのか、それらはどのような傾向を持つ組織、疾病なのか、日本国、日本人、日本企業をどのように眺めているか、どのような方向に持っていけば封じ込めることができるのか、などについて明らかにして、関係国と連携し、情報を共有しながら個別に有効な対策を開発していくわけです。

3つ目の対症療法的アプローチは、テロをやっても無駄だと思わせるほどの被害局限などの対策が講じられ、それによって高度な抑止力が生み出されることに尽きるでしょう。

感染症については、今回の新型肺炎への取り組みを進めながら、次なる致死性が高く、感染力が強い疾病のパンデミックを想定した施設、装備を備え、大規模災害を想定した訓練と重ね合わせて実行していくのです。

こうした3つのアプローチを実践していくなかで初めて、テロを起こさせず、感染を拡大させないだけの抑止力が国と社会に備わることになるのだと思います。(小川和久)

image by: Essffes / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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