トランプの悪辣。「黒人殺害抗議デモ」で威嚇し暴力も勧める愚行

 

ガーナー氏は43歳の黒人男性で、体重160キロ、身長が190センチという巨漢でした。トラブルの契機としては、違法な「脱税タバコ」を販売しようとしたところを、通報を受けて駆けつけた警官と「もみ合い」になったのです。

事件としては、「印紙のないタバコの箱からバラ売りしていた」つまり、一本あたりでは25セントとか、そうした極めて微額の「商売」であったわけですが、通報があれば警官が駆けつけるのは当然ということでトラブルになったのです。

ガーナー氏は抵抗したのですが、警官は身柄を拘束しようと最初は1名、やがて2名で立ち向かい「取っ組み合いのケンカ」状態になりました。何しろ、相手は160キロの巨漢ですから、最終的に身の危険を感じたダニエル・パンタレオという警官は、ガーナーの首を絞めるという行為に出ました。

正に今回のミネソタと同じ膝を使って首を圧迫するという方法ですが、凶悪な相手を確保する場合に警官には(州により合法非合法はあいまいなものの)良く知られている方法なのだそうです。

ガーナー氏は「息ができない」と何度も叫び、最後には窒息死したとされています。死亡確認は病院に搬送した1時間後でした。ただ、警官には殺意はなく、ガーナーが心臓の持病があり、また喘息体質であったことが死因の背後にあるという議論もあり不起訴の理由の1つとされています。

問題は、一連のトラブルがガーナー氏の知人によってビデオで撮影されていたということでした。このビデオが公開されたことで、「息ができない(”Ican’t breathe!”)」というガーナー氏の言葉は一躍有名になりました。そして抗議行動ではこのフレーズがスローガンになった、こうしたストーリーは、今回のフロイド氏のケースとソックリです。

そんなわけで、NYでは今回のフロイド氏の事件が、2014年のガーナー氏の事件に重ねられて、改めて警察への怒りを呼んでいるわけです。また、警察の中にも抗議行動に連帯する人もあるし、基本的にリベラルなNYでは、中道左派のクオモ知事も、左派のデブラシオ市長もデモの姿勢には賛同しています。

では、どうしてこうした事件が繰り返されているのでしょうか?

今回の事件ですが、問題は3つあると思います。

1つは、この種の事件が繰り返される社会的な構造です。そこには、黒人独特の言語やカルチャーについて、白人警官が、あるいは白人のコミュニティーが正確に理解できていない、そこで多くの局面でコミュニケーション上の誤解が起きるということがあると思います。例えば2014年のガーナー氏にしても、射殺されたマイケル・ブラウン氏にしても、彼らなりの「反抗姿勢」の「危険度」が正確に伝わらなかった、そこで恐らくは「殺意と誤認される」ということがあったのだと思います。

また、今回のジョージ・フロイド氏の場合は、恐らく(良くも悪くもストリートに生きていた)ガーナー氏などと違って、警備員などをしていた普通の市民です。ただ、フロイド氏は背が高い巨漢であり、それが白人警官たちの警戒心を誤って刺激した、つまり差別感情の原因になったと考えられます。

つまり、非常に単純化して言えば、「黒人として人権意識とプライドがあるから逮捕を従順に受け入れない」という姿勢が、警官には「危険で反抗的だから最大限の注意を払って無害化しなくては」という差別感情になる、そして「黒人の巨漢が抵抗しているのだからマニュアル通り無害化が優先される」という暴力の正当化が行われるわけです。

例えばNYの場合はガーナー氏の事件以来、膝で首を締めるという「手段」は限りなく禁止されている一方で、ミネソタでは異常に多かったという報告もありますが、こうした問題については厳しい検証が必要でしょう。

2番目は、主犯のショービンという元警官は、地元TV局の報道によれば容疑者を射殺するなど、捜査にあたって暴力行為が問題になったことが17回もあったというのです。ということは、こうした事件を起こす可能性はそもそも高かったという考え方ができます。また半端な暴力行為を証言されるよりも、相手の「口封じ」をしてしまおうという動機も抱えていたかもしれません。いずれにしても、警察の人事に大きな問題があったと思われます。

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