【書評】黒幕なんているのか。本能寺の変を妄想なしで解いてみる

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日本史上最大のミステリーとも言われる、本能寺の変。NHK大河ドラマ『麒麟がくる』がどのようにこの「変」を描くのか今から注目されていますが、その「真相」を巡っては諸説入り乱れています。説得力のある説から、全くありえなそうな説までさまざまなものが存在する中、結局のところ、どの説が最も信用に値するのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、妄想・想像一切なしで本能寺の変の謎に迫る一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:渡邊大門『本能寺の変に謎はあるのか?』

81D1xz7AkJL本能寺の変に謎はあるのか?
渡邊大門 著/晶文社

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』のせいで、明智光秀便乗本が出るわ出るわ。そんなアホな~な一冊から難解過ぎるものまで、硬軟さまざま。図書館にあったいくつかをざっと眺めたが、歴史学者・渡邊大門のこの本、副題が「史料から読み解く、光秀・謀反の真相」が、今のところ一番正しい歴史研究姿勢だと思った。

それは、良質な史料に基づき、これまでの先行研究を参照しつつ、過去の歴史を実証することである。資料的根拠がない場合は、単なる想像に過ぎない。史料にもいろいろあって、一次史料が古文書・古記録といった同時代史料であるのに対して、二次史料は後世に編纂された史料をいう。たとえば、軍記物語、地誌、家譜、系図、覚書などである。用いる際には慎重でなければならない。

信憑性の高い二次史料であっても、一次史料を中心にして論を展開するのがセオリーである。信頼度の高い「信長公記」「吾妻鏡」なども二次史料だ。昨今、内容が過激で魅力的な新説が話題を呼ぶが、ほとんどがデタラメである。史料を読めない人が書いた本はダメ、読んだふりもダメ、都合のいい解釈や誤読もダメ、自説を有利にするための史料の取捨選択もダメというより妄想だ。

史料を読めないのは論外として、自分に都合のよい史料や研究論文に基づき、自分の都合のよいように史料解釈したり、誤読したりして、自説に有利になるように思い込みや想像で論理の飛躍を重ねた本は、歴史研究に限らずまったく話にならないということである。そういう場合、「結論ありき」で話を進めていることが大半である。

これが学問の態度だが、殆どの光秀モノは別物だ。

いろいろな説が。主なものに、怨恨説、不安説、野望説、足利義昭黒幕説、朝廷黒幕説、四国政策説などがあるが、その他にも信長非道阻止説、イエズス会黒幕説、本願寺黒幕説など続々出てきて興味深い。もちろん、光秀単独犯説もあり、わたしはこれが正しいと思う。「愛宕百韻」の解釈も色々あって面白い。

発句 ときは今 あめが下なる 五月かな 光秀 (脇句、第三は略)

これが毛利氏討伐の出陣連歌であると同時に、土岐氏の栄枯盛衰を重ねたもので、光秀による土岐氏再興への激励であるという説。連歌という文芸に暗号のようなメッセージを託すなんてありえない。結論ありき、我田引水の説が多すぎる。著者は数々の黒幕説が、史料の拡大解釈や論理の飛躍で成立しており、とうてい従うことはできないと断じた。では著者はどういう意見なのか。

光秀単独犯説をとる。光秀は何らかの方法で、信長が本能寺にわずかな手勢でいるという情報を得た。そこで、一か八かという賭けに出た。自らが直接手を下し、信長を殺害することで活路を開こうとした。だが、光秀には政権構想や将来的な展望がなかった。黒幕がいて計画的に実行された、というものではない。本能寺の変の後の光秀のあたふた、右往左往ぶりからそれがわかる。

現在残っている史料(とくに二次史料)からは、さまざまな黒幕や陰謀説を証明することができない。「一次史料をみる限りでは、光秀の突発性ばかりがうかがえ計画性は見られない。したがって、現時点では光秀の単独的な犯行と考えざるを得ず、それが妥当であると考える」が結論である。納得。

編集長 柴田忠男

image by:  beibaoke / Shutterstock.com

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