うつろう、おもかげ。知の巨人・松岡正剛が見る日本人の心の歴史

 

興味深かった内容の一つは、「神は来るもの、帰るもの」、神は「客なる神」だという指摘だ。どこかにでんと居続けている主神的なるものではなく、何かの機会にやってくる来訪神だという見方である。「神」は身近な存在であり、寺院や神社や地蔵の祠を見ると、思わず手をあわす。

もう一つが「天皇の統帥権」というカード。武士が政治を行うようになって以降、常に「神威のカード」を持ち出して社会制覇のシンボル操作をしようとした。王政復古を謳った筈の明治政府は「統帥権干犯問題」に集約され、司馬遼太郎はそれを以て「異胎の国」と表現した。本来の日本と、「別国」(本来を失っているときの日本)が存在すると書いた。

明治の思想家・中江兆民は日本人の傾向を「恐外病」と名付け、そのくせこの病気はしばしば「侮外病」にもなると見抜いていた。海国日本は、蒙古襲来・黒船来航・米国空襲など外国を怖る一方で、三度に亘る大陸進出や「大東亜共栄圏構想」など攻撃的な国民性を見せる。歴史上、「中国離れ」に傾注した日本人も、「西洋離れ」はとことんヘタで、今も米国べったりである、とする。

370ページに及ぶ本書は、多くの人物と思想を紹介しながら松岡史観を展開する。小生が知りたい核心に近づいては離れてゆく。しかし、日本人の心の歴史を俯瞰的に見てゆく作業は面白かった。

著者は最後に「面影が移ろって出入りしているのだという思いが感じられる一句」として芭蕉の句を挙げた。

よく見れば なずな花咲く 垣根かな

image by: Shutterstock.com

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【著者】 ジミヘン 【発行周期】 週刊

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