悪夢が現実に。欧州を「中国依存症」にした習近平が狙うEU支配

 

夢物語ではなくなった中国による欧州支配

そしてその先に見えているのが欧州各国です。コロナ禍の中、EU内でも英仏独そしてベネルクス各国に反感を持つ中東欧諸国や“貧しい”南欧諸国などへの迅速なマスクと医療機器の供給という“マスク外交”は、一時は中国によるEU分断を決定的にする可能性を秘めていました。何とか北の加盟国(フランスやドイツなど)からの“謝罪”を経て、経済的な支援と共にEUの統合を致命的に乱すことにはならなかったのですが、その後も中国からの秋波は押し寄せています。

その典型例が、12月30日に合意したEUと中国の投資協定です。EUサイドからは自画自賛ともいえるコメントが相次ぎ、「これは中国との間でフラットな関係を築くためのもの」との認識が表明されていますが、裏返せば、抗っても否定できない欧州各国の中国経済への依存度の高さが中毒レベルにまで高まっていることを示します。

欧州委員会他は【中国とのフラットな経済互恵関係】と表現して面子を保とうとしていますが、中国の経済力強化が迅速に進められてきたこれまで中国が本当に国際的なルールに従って、フラットな関係に甘んじたことがあったでしょうか?

恐らく今後、アメリカからの呼びかけなどもあり、人権問題を盾にEUは中国の批判をせざるを得なくなりますが、すでに今回の合意によって経済的な首根っこを掴まれているため、あまり原理原則に拘ると、中国側としては簡単に欧州経済の活動を滞らせることが可能になってくるでしょう。

南シナ海問題、5G/AI、一帯一路政策による西進、脱炭素社会の構築…これらは一見直接的な関係はないように見えますが、実際にはこれらすべてが欧州への圧力強化につながる大事なピースとなっています。

つまり、中国による欧州支配は夢物語ではないかもしれないのです。

では当の欧州各国はどうでしょうか?表向きには強がっていますが、実際には中国の勢力の西進が止めることができないことは分かっているようです。それを止めることが出来るのは欧州各国自らと、恐らくアメリカとの密接な協力ですが、各国とも、抗えない対中依存度の高まりと、欧州が重要視する人権などの原理原則という狭間で苦しんでいるのが実情です。

人権を対中関係で口に出したら、すぐさま習近平国家主席以下、中国共産党幹部が挙って「人権に関する教師は不要」と不快感を露にして謝罪を求めるか、非公式ルートで欧州各国に譲歩を求めてきて、結果として欧州諸国は中国の思い通りになっていってしまうという悪循環に陥りかねません。

そしてそれはコインの反対にある“アメリカにも対抗できる経済力を、欧州として持ち、アメリカと対等の立場で、世界経済のメインプレイヤーになりたい”という長年の夢は、すでに中国なしでは叶わないという現実に突き当たります。

12月30日に合意された投資協定は恐らくメルケル首相の置き土産で、かつ対米対抗心の表れと言えるかもしれません。それは、ドイツ政府の対応のズレから見ることが出来ます。表向きは、昨年夏ごろからドイツのこれまでの中国への傾倒が行き過ぎ、それが中国の伸長を招いたとの反省から、インド太平洋戦略なるものを策定し、広範なアジアへのコミットメントを強める外交方針を出しました。そしてそれを受けるかのように、今年中にはドイツ海軍の艦船が定期的かつ長期にアジア海域に派遣されるという動きにも繋がります。

表面的には、ドイツの中国離れとも取れますが、実際には投資協定のケースで典型的に見られるように中国依存度は低下していません。すでに退任が決まっているメルケル首相ですので、その後継者たちはすでにPost-Merkelの政策を打ち出しており、今回の艦船の派遣は、象徴的なものであっても、第2次大戦後封じ込めてきた域外への軍の派遣と、同海域においてすでに一定の勢力を築いているフランスへの対抗心が相まっての結果となっています。

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