自衛隊の「防衛大卒」偏重はもう古い。導入すべき米軍の教育システムとは

shutterstock_1555097750
 

前回の記事「一般大学出身の陸上幕僚長 30年ぶり誕生の意義」で、自衛隊改革への期待を示した軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、改革のアイデアとして、米軍基地内に設けられている大学から大学院までの教育の仕組み「アフター・デューティー・スクール」の導入を提案。自衛隊内に確かにある防衛大学校出身者偏重という硬直した人事制度を改めるきっかけとなり、志ある隊員の士気と能力の向上は、自衛隊の戦力向上にも繋がると説いています。

自衛隊にも「アフター・デューティー・スクール」を

前号の編集後記「吉田陸上幕僚長に期待する」を書きながら、頭に浮かんだことがあります。それは、アフター・デューティー・スクールです。日本ではほとんど知られていませんが、米軍基地に設けられた大学から大学院までの教育の仕組みです。

私が初めて在日米軍基地で聞き取り調査を行った1984年当時、東京の横田基地など主要な在日米軍基地ではメリーランド大学がアフター・デューティー・スクールの役割を担っていました。ほかの大学もあったかも知れません。

まず大学と大学院修士課程の夜間部があります。勤務が終わった兵士やシビリアンは、ハイスクール卒業者は大学に、大学卒業者は大学院修士課程にというように、基地内の教室に通います。同時に大学から大学院博士課程まで通信教育の制度もあり、他大学でも単位が認定されるメリットを活かして通信制に学ぶケースも少なくありません。

そんなこともあり、米軍基地では飲んだくれて帰隊する兵士もいる一方、真剣に勉強している兵士たちの姿を目撃し、驚かされたものです。これは、日本とは違った意味で「学歴社会」の米国だからこそ、生まれた仕組みでもあります。

西恭之静岡県立大学准教授によれば、米軍の場合、昇任の審査は上官・同僚・部下からの評価を集めた「360度評価」が一般的で、例えば大尉から少佐に2回昇任することができなければ退役させられることになっています。これはアップ・オア・アウトと呼ばれる制度です。

そんな場合でも、アフター・デューティー・スクールでMBA(経営学修士)の資格をとっていれば、それなりの就職口にありつけるというものです。軍に勤務している場合でも、学士号、修士号、博士号は、それなりに評価の対象になります。

前号で紹介したマティス国防長官やフランクス中央軍司令官は、いずれも2等兵で入隊し、通信教育などで大卒の資格を取っています。政治学方面の修士号や博士号をとって、軍の中の研究者として戦略面で能力を発揮する将校もいます。

これと比べると、自衛隊の場合は合格者全員が一線に並ぶかに見える指揮幕僚課程を出ても、B(防衛大学校)、U(一般大学)、I(部内選抜)という区分をもとに昇任が決められていきますから、30代に入る頃には自分の前途が見えてしまい、自然、勉強する人は限られてくるのです。これは士気だけでなく自衛隊の戦力を高い水準で維持する面で好ましい傾向とは言えません。

そこで提案です。自衛隊にもアフター・デューティー・スクールを設けたらどうでしょう。一般大学で名乗りを上げるところは少ないかも知れませんが、例えば防衛大学校がアフター・デューティー・スクールと通信制を設けるのは、教職員など人員の手当をすれば不可能ではありません。

自衛隊で能力を発揮したい意欲的な若者は、防衛大学校のアフター・デューティー・スクールか通信制で学ぶことで、全員が防衛大学校出身者になるのです。これによってB、U、Iの区分による人事制度の硬直化を防げるかも知れません。

それでもアフター・デューティー・スクール出身者に「Bダッシュ」などという区分が設けられるようだと、自衛隊はもうダメということになりますね。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

小川和久この著者の記事一覧

地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 NEWSを疑え! 』

【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 自衛隊の「防衛大卒」偏重はもう古い。導入すべき米軍の教育システムとは
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け