【映画評】映画監督、入江悠が「今後アクション映画を撮る人は見てないと勉強不足!」と語る映画とは?

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映画監督、入江悠が『ジョーカー・ゲーム』を撮る前にどうしても会いたかった人

1月31日に、亀梨和也さん主演で公開される本格スパイサスペンス映画『ジョーカー・ゲーム』。本作のメガホンを取ったのは、まぐまぐでも有料メルマガ、入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」を執筆している映画監督・入江悠さんだ。

その入江監督が『ジョーカー・ゲーム』を撮影する前に、どうしても会っておきたい人物がいたという。その人物こそ映画『るろうに剣心』シリーズでアクション監督を務めた谷垣健治さん。

同メルマガの人気コンテンツで、入江悠監督がとにかく興行収入第一位の映画を鑑賞し、評論するコーナー『入江悠のNO.1映画観戦記「キャバ嬢を口説ける、興行成績第一位」』でも、昨年12月22日配信のvol.92号でそのアクションシーンの凄さを大いに語っている。

1位の映画がすでに連載で取り上げていた場合、順ぐりに2位の映画(今週は『蜩の記』)になるわけですが、今週はちょっと変則的に『るろうに剣心』シリーズを総括したいと思います。

というのも、本シリーズの面白さの源である「アクションの魅力」については、そのうちいろいろな雑誌やテレビなどで振り返られると思いますが、即時性の強い我がメルマガだからこそ語れることもあるはずなのです。

本シリーズによって日本映画のアクションの基準・ハードルは数段高くなった、と僕は思っています。それほど、『るろうに剣心』のアクションはレベルが高く、芸が細かい。これから日本でアクションシーンが出てくる映画を作る制作者は、いやがおうにも本シリーズを意識せざるを得ないはずです。無視したら怠慢。あるいは勉強不足。おこがましくもそう言い切ってしまいたいほどです。

『るろうに剣心』シリーズの何が凄いかというと、とにかく「速い」。アクションシーンを作る制作者がいつも頭を悩ませるのは、どう俳優の動きを「速く」見せるかです。特別な稽古や修練を積んだ香港やアメリカのアクション俳優のように、その人のアクション自体がすでに速い場合は、あまり困りません。『るろうに剣心』の佐藤健さんや神木隆之介さんはかなり動きが速く、殺陣本来の美しさを持っていますが、そういう俳優さんばかりが映画に揃うということはなかなかありません。

アクションシーンを演じる俳優さんには、撮影までにできるだけ的確に「速く」動いてもらうための練習をしてもらいますが、数カ月数週間の練習だけでは自ずと限界があります。子供の頃からその練習だけを繰り返してきたジャッキー・チェンや、ドニー・イェンなどの演じる香港アクションを観慣れた観客には、どうしても差が見えてしまいます。

そこでアクション監督をはじめとする裏方のスタッフは、「速く」見せるためにいろいろと工夫を凝らすことになります。最新作『ジョーカー・ゲーム』ヤンキーのアクションを描いたテレ東ドラマ『クローバー』で、僕自身が学んだことをいくつかご紹介しましょう。

(1)カットを細かく割る
アクションの段取りを作るときには「手」と呼びますが、一手、二手、三手、とパンチやキックを繰り出していき、ああ、もうこれ以上は俳優の動きをそのまま見せられない!動きの雑さがそのまま映ってしまう!となったら、カットを割ります。カット職人・林が連載で時々分析をしていますが、1カットの持続というのは諸刃の剣です。ある緊張が持続することもあるが、ボロが出てしまうこともある。そのボロが出る前にカットを切って、別のアングルから撮る。俳優の動きをより良く見せるためにカットを割る。これが最も簡単な、「早い」アクションの見せ方です。

(2)コマを落とす
映画は1秒間に24コマの静止画が動いて、人や物が動いているように見せる表現媒体です。だからモーション・ピクチャーと呼ばれるのですが、そのコマを早くすることでアクションも早く見せられます。たとえば、人が走っているカットを撮ったとして、なんか遅いなあ、と思ったら、1秒間に動くコマを20コマにする。すると、4コマ分の静止画が無くなるので、それだけ早く見えます。古い映画などでシャカシャカと人が早く動いていたりするのはこれです。(狙ってそうしているわけではなく、機材の限界でそうなっている)。この技法を使うと、木の揺れや車の動きなども早くなってしまうため、多用しすぎると変な違和感が生まれてしまいます。

(3)逆に「ハイスピード」にする
ハイスピード、いわるゆスローモーションです。香港のジョン・ウー監督作やジョニー・トー監督作では多用されますが、バサッと銃を抜き、構える、撃たれて吹っ飛ぶ、などの動きをスローモーションでゆっくり見せます。アクションには緩急が大事で、ずっと早いと「早さ」が際立たない。だから、遅いところは思い切り「遅く」してしまって、緩を作る。この技法は一時期、安易に乱用されて、ハイスピードの多用はダサい、逃げている、と思われがちになりました。

以上がアクションを「早く」見せるための、最も初歩的な技術です。『るろうに剣心』シリーズはこれらを巧く使いこなしながら、俳優さん達の素質を存分に引き出し、さらにその上の、世界に通用する技術を随所にちりばめています。

本シリーズのアクションを作ったのは、1970年生まれの谷垣健治さん。22才で香港に渡り、言葉もわからないままエキストラとして潜り込みます。そこからジャッキー・チェンに出会い、香港のアクション人脈を作り、ドニー・イェンのアクション監督となった人です。つまり良い時期の香港映画でアクションを学び、日本に逆輸入された方。今でも各国のアクション映画を作るために、世界を飛び回っています。ご自身の本『アクション映画バカ一代』(2013年 洋泉社)で、その爆笑、落涙のむちゃくちゃな武者修行話が読めます。

僕は『ジョーカー・ゲーム』という映画を撮る前に、どうしても谷垣さんに会っておきたくて、一度お会いしたことがあります。その時、僕の大好きな『孫文の義士団』や『捜査官X』について、どうやってアクションシーンを作ったのか聞いたのですが、谷垣さんは大陸的なおおらかさですべて教えてくれたのでした。

ノートパソコンをパカッと開けるとそこには、谷垣さんがこれまで作ってきた映画のアクションシーンのデータが、ずらずらっと並んでいました。「俳優が疾走しやすくするために屋根の○○を撤去したんだ」とか、「地面の砂の下にバレないように、○○を張っておくんだよ」と、それらの企業秘密について丁寧に解説してくれたのです。

迫力あるアクションシーンを作るための芸の細かさ、繊細さは、まさに目から鱗が落ちる思いでした。撮影現場で監督がOKを出しても、谷垣さんがOKをなかなか出さない、それくらい根を詰めてアクションシーンを作っていたとのことです。

谷垣さんから教わった技術のいくつかは、『ジョーカー・ゲーム』撮影時にインドネシアで僕なりに応用して使わせてもらいました。勢いと力強さだけに目を奪われがちなアクションですが、なるほど、繊細さと用意周到さが命なのだ、と実感した覚えがあります。

この谷垣さんの『るろうに剣心』シリーズをきっかけに、現在の日本映画界では下火になっているアクション映画が再興し、世界に通用する、世界をアッと言わせるアクションシーンが生まれたら、そう、心の底から僕は願っています。

アクションシーンへの並々ならぬ思いをメルマガ内で語る入江監督。これから映画監督を志す人、映画をもっと多角的に楽しみたい人は必見の内容が満載の入江悠presents「僕らのモテるための映画聖典」も合わせてチェックして欲しい。

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