ロシア外務省は12月15日、「ロシア連邦と北大西洋条約機構(NATO)加盟国の相互の安全を保障する措置に関する合意(案)」を米国側に手交したが、交渉の土台となる内容ではない。武力行使を正当化するため、拒否されることを前提に出されたおそれが強い。
ロシア側の合意案は、東欧のNATO加盟国やウクライナの主権を制限するだけにとどまらない。第5条には、ロシアも加盟国も「地上発射型の中距離・短距離ミサイルを、相手の領土に届く地域に配備しない」とあるが、ロシア自身が履行するとは考えられない内容だ。
仮にNATOが受け入れた場合、ロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイルは、バルト海沿岸の飛び地のカリーニングラード州にも、バルト三国、ノルウェー、トルコから500キロ以内のロシア領土にも配備できなくなる。また、ロシアは米トランプ政権が中距離核戦力全廃条約(INF条約)を破棄すると警告したにもかかわらず、9M729巡航ミサイル(NATO呼称SSC-8)を地上に配備し、米国は破棄を実行したが、その9M729も、今回の合意案によればヨーロッパロシアに配備できなくなる。
さらに、ロシアの宣伝は、ショイグ国防相が12月21日、「米国の民間軍事会社がドンバス(ウクライナ南東部)で化学兵器を用いた挑発行為を準備している」と主張するなど、ウクライナに侵攻した場合に口実としうるものが増えている。(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年12月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから
image by: De Visu / Shutterstock.com