日本人が知らない、ファッション界における「文化盗用」と「差別」の歴史

 

4.地球は一つという価値観

更に、話をややこしくするのが、左翼的な思想を持つファッションメディアです。

「多様性社会」「ジェンダーレス」「環境問題」等のテーマは、地球的な価値観を共有する最新トレンドのキーワードです。メディアはこうした思想を支持しています。ヨーロッパの価値観、白人の価値観を押しつけるのではなく、マイノリティを認め、受け入れることが新時代の価値観だと提唱しているのです。

ファッションメディアの役割は、「新しい才能の発見」「新しいテーマの提示」「ファッション業界の活性化」であって、ファッションシステムの破壊ではありません。

しかし、世界は分断し、対立しています。世界は一つではありません。現在のファション状況そのものに矛盾があるのです。

我々の生活は、必ずしも先進的な理念に従っているわけではありません。個人は個人のアイデンティティのもとに、好きなテーマのファッションを選べばいい。しかし、デザイナーには、時代の波に乗ることが求められるのです。

このまま行けば、デザイナーはコレクションの発表自体を中止するかもしれません。コレクションを発表することは、コピー業者のために情報を提供していることにほかなりません。加えて、価値観が分断した社会で何を発表しても全員を満足させることはできないのです。

5.文化盗用の発想がない日本

日本を訪問する外国人は、日本人が「文化盗用」という意識を持たず、「外国人がきものを着るのを喜ぶ」ことに驚くようです。

日本文化はヨーロッパ文化、白人文化に反発して生れたものではありません。日本人にとってきものは伝統的な民族衣裳であり、洋服と矛盾する存在ではありません。洋服が好きな人は洋服を着ればいいし、きものが好きな人はきものを着ればいい。それは、日本人でも外国人でも同じことです。

日本文化はヨーロッパ文化とは異質です。反ヨーロッパではなく、非ヨーロッパです。そして、日本人は一神教のように唯一神が作った真実だけが価値あるものと思っていません。山には山の神様がいて、海には海の神様がいる。竈の神様も便所の神様も家の中にいるのです。

ファッションも同様です。大手アパレルはアメリカの既製服メーカーのノウハウを基本にしていますが、オーダーメイド中心のヨーロッパ文化に基づくデザイナーも存在します。

更には、ヒップホップのストリートファッションも、ゴシックやロリータ、コスプレも許容します。

そんな日本人にとって、文化盗用という発想は「何と狭量なことよ」と思わずにはいられません。

編集後記「締めの都々逸」

「人の多様を 認めるならば 神も多様で おわすのか」

対立と異質は異なります。本来、黒人が持っていた文化も異質だったと思います。しかし、白人社会に無理やり連れてこられ、奴隷労働を強制され、差別されました。

そこから、「ブラック・イズ・ビューティフル」というカウンターカルチャーが生まれ、経済的にも成功するスーパースターが生れ、白人の価値観とは異なる独自の価値観を主張したのです。

一神教のキリスト教的な世界では、神の世界は一つであり、それに反対するのは悪魔ということになります。両者は共存できず、対立したままです。

その点、日本は何でも共存できます。世界は一つではなく、世界が無限大に分かれていたとしても、共存できると考えるんですね。この感性は案外重要かもしれません。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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