プーチンの蛮行に直面した今だから。絶対に考えることを止めてはいけない訳

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プーチン氏の蛮行により、ウクライナの地で失われてゆく尊い命。さまざまなメディアにより悲惨な光景が伝えられてきますが、このような悲劇を回避する手立ては残されていなかったのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、ユダヤ人哲学者が残した言を引きつつ、「自らの頭で考え続けること」の重要性を強く主張。考える作業を怠った途端にありえないと思っていたこと、すなわち戦争のような悲劇が平気で起きうると警告しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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自分の頭で考えているのか?

人間の愚かさを痛感させられる事態が起きてしまいました。

プーチンの、プーチンによる、プーチンのための“戦争”です。

戦争はいつだって、理不尽で、悲惨で、破壊的で。権力者の暴挙な思考により、普通に暮らしていた人々の「大切なもの」を奪略します。

権力の占有化(=戦争)で傷つくのは、普通に暮らしていた人々です。

我が眼を疑うような映像を目の当たりにし、自分に何かできることはないか?恐怖と寒さと飢えに堪えているウクライナの人たちの力になりたい。そう思った人たちは多いことでしょう。

私もそうです。でも…寄付をすることくらいしかできないのです。

プーチンの始めたこの戦争を、誰か止めることができるのか?プーチンの暴走を、誰か抑えることができるのか?

ロシアでは、将校をまとめる団体である「全ロシア将校協会」が「プーチン辞任」を求める公開書簡を発表したとの報道もありましたが、この戦争がきっかけで、「次」の暴挙が始まってしまうのではないか?

そんな不安が尽きません。

この数日間、私は「ハンナ・アーレント」の言葉を、何度も思い出しています。

“思考の嵐”がもたらすのは、知識ではない。善悪を区別する能力であり、美醜を見分ける力です。私が望むのは、考えることで人間が強くなることです。危機的状況にあっても、考え抜くことで破滅に至らぬように。

これはアーレントが学生たちへの講義の中で語った一節です。

ドイツ出身のユダヤ人哲学者、思想家であるアーレントは、ナチズムのドイツからアメリカに亡命しました。

アーレントは、ナチスの親衛隊将校で、数百万人ものユダヤ人を収容所へ移送するにあたって、指揮的役割を担ったとして逮捕された、アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、執筆したレポートで世界中から大非難を浴びた女性です。

本来、アイヒマンを断罪する立場のアーレント。彼女はアイヒマンの証言を聞くうちに、「彼は私たちとなんら変わりない、“平凡な人間”ではないか?」と次第に考えるようになりました。

アーレントは、アイヒマンが、当時置かれていた状況、彼の心の動き、彼の行動……。それらを、自分の頭で、何度も何度も考え続けた。「残虐な殺人鬼」と世間に評された男を、擁護ではなく、理解しようと、必死で考え抜いた。

そして、「絶対的な権力は人を無力化し、無力化した人は考えることを自ら放棄する」という結論に至ります。「悪の陳腐さ(the Banality of Evil)」という言葉で、自分の考えを他者に訴えることを恐れず、どんなに批判されても、何をされても考えることをやめてはいけない、と発信し続けました。

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