日本の願望か?「オミクロン株流行で中国経済は破綻一直線」の大ウソ

 

中国経済の行方を悲観する報道には、決まって不動産と地方債務の問題が取り上げられている。今回もそれは例外ではない。

まず不動産問題だが、確かに中国には不動産不況と呼ぶべき現実がある。ここ数年都市部を中心に価格も下がり続けている。習近平が「不動産は住むもので投機の対象ではない」と号令をかけたことで業界にはさらに強い逆風も吹いている。

この弱り切った業界がロックダウンに耐えられるのか、という疑問は当然のことで、最悪のシナリオはこれが地方債務問題へと延焼する展開だ。

だが、あらためて言うまでもなく不動産と地方債務の問題は中国にとっては積年の課題だ。当然、政府は問題を熟知している。しかし現在に至るも政府が慌てた様子もなければ対策に奔走することもない。それどころか「脱不動産けん引型の経済」に舵を切る習近平の荒療治が、むしろ加速しているのだ。

中国の不動産バブル対策は、小さな調整弁をたくさん設けて細かく調節するもので、かつての日本が総量規制一発でバブルを吹き飛ばしたのとは対照的だ。ひょっとするとうまく調節すればソフトランディングも可能という判断をしているのかもしれない。そしてその判断はコロナ禍でも変わらないようだ。

一方の債務の問題はどうだろうか。コロナ対策で財政の健全化の流れは明らかにストップしている。これを人体にたとえれば、胡錦涛から受け継いだ肥満体質の改善のためにしていたダイエットを、コロナで一旦放棄、リバウンドしたということだ。中国の総債務は2020年末の時点で対GDP比で289.5%まで上昇したという。現在のようにロックダウンを続ければ、体質改善は遠のく。財政の健全性という意味ではそれだけマイナスは深まったということだ。これが中国が抱えてきた二つの弱点の現在地だ。

だが、これらの問題も世界経済の流れのなかでみれば、むしろ中国の比較優位が際立つのである。

第一、世界経済のけん引役として中国に集まる期待値は高まることがあっても減る要素は見当たらない。とくに今後、ウクライナ戦争の影響が世界を襲うなか、成長エンジンとしての中国の安定感は相対的に高まると予測されるからだ。

中国は「制裁で問題は解決しない」と、対ロ制裁には参加していない。つまりエネルギー不足からインフレが加速する問題や対ロ貿易が絶たれたことで景気が減速するといった問題からは一歩引いた位置でいられる。

経済が比較的安定していれば投資を集められるし、インフレを懸念する国々は中国からのモノの供給に頼らざるを得なくなるのだ。

バイデン政権が国内のインフレ対応策として、トランプ政権下で発動された対中制裁関税の見直しに着手したことでもわかるようにインフレが加速すれば製造基地としての中国の存在も重要になるのだ。

実際、中国の輸出は堅調である。第1四半期の貿易総額は対前年同期比で10.7%の増加(GDP成長率は4.8%)だ。なかでも輸出は対前年同期比13.4%も伸びた。ちなみに輸入は7.5%増で、貿易黒字が膨らんでいることも見て取れるのだ。

中国経済の原動力は消費、投資、輸出入の三本柱によって成り立っている。そしてコロナ禍でダメージを被ったのは、このうちの個人消費である。ロックダウンは旅行業界、小売り、レストラン関連に未曾有の逆風となった。

中国政府はこれらの業界に個別に対処すると同時に、全体としては消費に空いた穴を輸出とインフラ投資で補おうとしているのだ。

事実、固定資産投資の伸びは対前年同期比9.3%と大幅増だ。なかでもインフラ投資は8.5%を占める。同じ数字が昨年末には0.4%だったことを考えれば、政府が肥満体質の改善──つまり財政健全化──を一旦わきに置き、景気刺激に大きく舵を切ったことは明らかだ。

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