6割以上が対象外。「賃上げ策」から取り残される看護師たちの苦悩

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日本国内で新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからまもなく2年半。さまざまな「現場」で多くの苦労があったなかでも、いまなお戦いが続いている「現場」があります。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんは、多くの離職者が出たことにより過酷な状況が続いている看護の現場について、ある病院の看護部長さんの言葉を紹介。政府が看護師の収入を3%程度引き上げるために取った「賃上げ策」が、4割弱の限られた看護師たちにしか適用されない実態を指摘し、「公正公平な分配とは何か?」と問いかけています。

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これは「公平な分配」なのか?

厚労省が「屋外ではマスクはずしましょう!」とするリーフットを作成したり、地方自治体等が「旅行・宿泊割引、プレミアム付宿泊券などの観光キャンペーン」をスタートさせるなど、コロナ前の日常が取り戻されつつあります。

しかし、いまだに日常に戻れない現場の人たちがいます。その一つが、看護の現場。2020年3月にコロナの感染拡大が深刻化して以来、 “戦場”と化した現場で、私たちのために戦ってきた看護師の人たちです。

「想定外だったのは、30代の中堅どころの離職者が急増してしまったこと」と、現場の苦悩を話してくれたのは、ある病院の看護部長さんです。

「第6波が収束し、世の中では何事もなかったかのような雰囲気がありますが、医療の現場は疲弊しきっています。昨年末に、過重労働に加え、医療現場への偏見や差別から、自分の人生と家族を守るために、現場の柱である30代の看護師の多くが辞めてしまいました。しかも、家族がコロナ感染したことで欠勤を余儀なくされたスタッフもいたので、限られた人数で対応するのは本当に大変でした。

今後、この状況を立て直していかなきゃなんですけど、中堅どころが辞めてしまったので苦労しています。患者さんやご家族から暴言を吐かれることが、コロナで増えたので、心理的なケアも必要です。もちろん労ってくださったり、応援をしてくださる人たちもいますが、それだけでは頑張れない。限界を超えてしまったんです」

コロナ感染第1波で“炭鉱のカナリア”となった永寿病院の院長が、当時の状況をつまびらかに報告・説明したのは2020年7月、今から2年前です。

当時、院長は「私どもの経験をお聞きいただくことで、新型コロナウイルス感染症に対する皆様のご理解や、これからの備えにお役に立てれば」と会見で話していましたが、その後は“このとき以上”の悲鳴が、日本全国の医療現場で上がりました。

その悲鳴はもはや「目の前の人をとにかく助けたい」という、医療従事者たちの使命感だけでは乗り切ることができない事態に発展。そして、日常が戻りつつある今。医療現場の苦悩が続いているのに、メディアで取り上げられることはほとんどなくなりました。

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しかも、政府は昨年11月、2022年度診療報酬改定において、10月以降看護師の収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の仕組みを創設し、2月から前倒しで、賃上げ効果が継続される取り組みを前提とし、収入を月額4,000円引き上げる措置を実施しましたが、対象は「地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員」のみ。

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