ノーベル賞はもう出ない?日本の若手研究者を取り巻く悲惨すぎる現実

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今年度末、国立大と国所管の研究機関で多くの「雇い止め」が発生する可能性があることをご存知でしょうか。非正規で5年雇用した際の「無期転換」ルールの特例で、10年任期とされた大学と研究機関の非正規職員3756人が任期を迎えるためで、既に雇い止めの宣告を受けた職員が現れています。大学の研究費削減や高学歴ワーキングプアの存在を問題視し発信してき健康社会学者の河合薫さんは、今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、研究者を軽んじる政策に疑問を呈し、この国の将来を悲観しています。

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ノーベル賞はもう出ない?

10年は短い?それとも長いのか?大学や研究機関で長年働く非正規職員の人たちが、2022年度末での労働契約の打ち切りを告げられる事例が相次いでいます。

先日も、九州大学に勤務する研究支援員の女性が、教授に呼ばれ「契約更新しない」と書かれた労働条件通知書を見せられ、内容に同意する「確認書」に署名を求められたというニュースが話題になりました。

文科省によると、国立大86校などで3099人、所管する5つの研究機関で657人が、今年度中に10年に達すると公表。おそらく今後は、九大と同じように「無期転換」しないために、雇い止めされるケースが増えるかもしれません。

本メルマガでも度々書いていますが、日本の研究者を取り巻く環境は、かなり悲惨です。2012年、ノーベル賞を受けた山中教授が、研究所の90%が任期付きの研究者で、その正職員化が自分の役目だと発言し、波紋を広げました。

当時、一般企業でも非正規雇用が増加してましたが、「90%」という数字は衝撃的。実際、25~34歳の若手の男性の場合、一般企業の非正規率は10~15%程度ですが、大学職の同年代の非正規率は50%を超えています。

また、最新の調査では、博士号取得者の年間所得は、全体では400万~500万円が14%と最も多く、次いで300万~400万円が13.8%。男女別では、女性で一番多かったのは300万~400万円(14.3%)、男性は400万~500万円(14.8%)。分野別では、人文系には100万~200万円未満の“高学歴ワーキングプア”が19.6%もいることがわかっています。

一概に研究者といっても分野により、研究にかかる時間も成果もさまざまです。しかし、大学院進学にはお金がかかる上に、博士号取得までには時間もかかります。「学問に王道なし」という言葉どおり、たまたまいい研究の成果が出る、なんてことはありません。地道かつ愚直さが、研究者の土台であり、学び続ける力もふんばる精神力も体力も、半端なく必要です。

日本が低学歴国に成り下がった大きな要因は、研究者を取り巻く環境の悪さがあることは明白であり、同時に科学技術力の衰退を招きました。とりわけ基礎研究を続ける環境が、淘汰されつつある状況は、間違いなく未来に禍根を残すことになります。

1990年代から2000年にかけてノーベル賞を受賞する日本人が相次いだのは、1980年代までの日本には、「研究者がきちんと研究できる環境」があったからです。今世紀に入っての日本人“受賞ラッシュ”は、過去の遺産の賜物です。

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