巧妙に仕組まれた嫌味と再登板の野心。菅前首相が「弔辞」に含んでいたこと

rz20221004
 

9月27日に営まれた安倍晋三元首相の国葬で、それぞれ友人代表、葬儀委員長として弔辞を読み上げた菅前首相と岸田首相。ネット上ではさまざまな評価が飛び交っていますが、「政治家の発言や声明」として聞くと改めて見えてくるものがあるようです。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、二人の弔辞を分析。そこから浮かび上がった菅前首相の凄みや岸田首相に対するスキル的な疑問を書き記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年10月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

安倍氏国葬、岸田・菅の弔辞を分析すると

安倍晋三氏の国葬が無事に執り行われ、新旧の2人の宰相の弔辞が話題になっています。ただ、菅さんのものが感動的とか、岸田さんのが詰まらないというような印象論には私は興味はありません。あくまでこの2人は政治家であり、弔辞もまた政治的なステートメントとして受け止めました。その上で、留意点をメモしてこうと思います。

(1)菅氏の弔辞の冒頭にあった「瀕死の安倍氏を見舞った運命の日」についてですが、この行動には凄みを感じます。自身の政治的復権をかけて東京から奈良まで飛んだのですから、その迫力には敬服しますし、これをお涙頂戴の感動ドラマに仕立てるというのは相当です。

(2)北朝鮮にコメを送ろうとした民主党の政府に反対したくだりですが、菅氏は「草の根の国民に届くのならよいが、その保証がない限り、軍部を肥やすようなことはすべきでない」と言って、「自民党総務会で、大反対の意見をぶち」、それで安倍氏と意気投合したというのは面白いと思いました。ここで言う「草の根」というのは、北朝鮮の庶民のことなんですね。菅氏の一種のバランス感覚であり、この場でこういう事を言うのは結構面白いと思いました。

(3)最大のハイライトは、安倍氏に2度目の総理総裁目指して出馬を促した、具体的には「2人で、銀座の焼き鳥屋に行き、私は、一生懸命、あなたを口説きました。それが、使命だと思ったからです」という部分です。どうして安倍氏にはカリスマ性が戻っていると判断できたのか、とても興味がありますし、そもそも清和会のボスではない安倍氏を総裁候補に押し出した辺りの力学は、もう少し詳しく分析が必要です。

(4)TPPの話も面白いです。「TPP交渉に入るのを、私は、できれば時間をかけたほうがいいという立場でした。総理は、「タイミングを失してはならない。やるなら早いほうがいい」という意見で、どちらが正しかったかは、もはや歴史が証明済みです」ということで、自由貿易を認めています。現在の政治の文脈からは、菅氏が一定程度は河野太郎氏などと連携して、構造改革に理解を示していることの証左かもしれません。持ち上げ過ぎかもしれませんが。

(5)晩年の安倍氏が、山県有朋伝を読んでいたというのは、非常に巧妙に仕組まれた嫌味も薄っすら感じられますね。山県という人は、最後は昭和天皇と香淳皇后との婚約に反対して、国民から総スカンを喰らい、国葬も閑古鳥だったそうです。その辺の含みもピリっと利かせてあって、つまり安倍さんをディスるのではなく、国葬を強行した政権に対して、薄っすらと嫌味になるというわけです。その上で、山県の「今より後の世をいかにせむ」という短歌の下の句で結んでいる、そこには再登板の野心もあるし、難局への危機感もあるということで、お見事でした。もっと言えば、山県の短歌は、伊藤公を悼んでいる内容であり、つまりは安倍さんを伊藤公にたとえているわけです。これも伊藤公が日露と日韓の間で引き裂かれた存在ということを踏まえていると考えると、面白いと思いました。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • 巧妙に仕組まれた嫌味と再登板の野心。菅前首相が「弔辞」に含んでいたこと
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け