求心力に陰り。アメリカが出した中国「人権」討議案はなぜ否決されたのか?

 

フィリピンパブの問題は、外国や国連の目には人身売買と映るし、かねてから「奴隷労働」と指摘されてきた外国人技能実習制度は「外国人労働者搾取」と米国務省からも指摘(2021年7月1日)されてきた問題だ。また従軍慰安婦問題も、アントニー・ブリンケン米国務部長官は2021年2月18日、「第2次世界大戦当時、旧日本軍によることを含んで女性に対する性的搾取は深刻な人権侵害ということをわれわれは長い間語ってきた」と批判している。

日本でさえそんな状況であれば新興国や発展途上国が無傷なはずはない。そもそも「人権」のご本尊であるアメリカでさえ、今回の人権理事会で陳大使から「自分たちの人権問題には目をつぶり、他国だけを責めている」と批判され、「人権状況に問題を抱えていない国はない。アメリカも、そして中国も」(テイラー大使)と答えざるを得ない状況なのだ。

中国に賛同するというよりも、今後もしアメリカとの間に深刻な利害対立を抱えれば、「人権」で徹底的に責められかねない自国が容易に想像できることが中国と歩調を合わせるメリットなのだ。

西側先進国は、すべての価値観が正しく自分たちのルールに合わせろという圧力をかけてくる。それに対して中国がつくろうとしているシェルターは、自国の経済発展を優先し互いに内政干渉せず「緩いつながり」でしかない。この中国の仕掛けは、アメリカが高圧的に出れば出るほど発展途上国には魅力的に映るのだ。

そして早速その兆候の一つが世界を駆け巡った。「石油輸出国機構(OPEC)内外の主要産油国で構成する『OPECプラス』が大幅減産」というニュースだ。

ヨーロッパをはじめ世界がエネルギー価格の高騰に苦しんでいるなか、バイデン政権は増産への強い圧力をサウジアラビアほかの産油国に与えていた。それにもかかわらず「OPECプラス」は減産を決めてしまった。しかも当初の予想を大幅に超えた大減産というのだからバイデン大統領の頬を打つような仕打ちだ。

これに欧米社会が受けた衝撃は計り知れない。西側メディアは、世界がエネルギー価格の高騰やインフレに苦しむ現状をたてに産油国を責める姿勢を鮮明にしたが、OPECの雄、サウジアラビアの反応は冷淡だった。

背景には、アメリカが自国の石油産業へは減産を強いることなく、外にだけそれを求める姿勢への不信感があったとされる。バイデン政権にしてみれば従来からの政策の維持と選挙を控えたインフレ退治で、そうせざるを得なかったのだろうが、両者が正面衝突するのは時間の問題だったのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年10月9日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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