安倍政権時代とは雲泥の差。統一教会の被害者救済法案成立の奇跡

2023.01.09
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昨年12月10日、臨時国会最終日に成立した旧統一教会の被害者救済法案。その内容についてはさまざまな意見がありますが、成立までのプロセスを評価する声も聞かれます。そんな中にあって、「野党側のパフォーマンスに驚かされた」とするのは、毎日新聞で政治部副部長などを務めた経験を持つジャーナリストの尾中 香尚里さん。今回尾中さんはその理由を綴るとともに、「事実上、野党側の議員立法の成立に近い成果」を上げることができた要因を考察しています。

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

ねじれ国会でもないのに弱小野党が成果をあげた「統一教会被害者救済法案」の奇跡

昨年12月10日に閉会した臨時国会。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)被害者救済新法をめぐる野党側のパフォーマンスには驚かされた。「犬猿の仲」の立憲民主党と日本維新の会が、共同で法案を提出できたのも驚きだし、衆院で圧倒的多数を誇り、参院選でも勝利して順風満帆のはずだった岸田政権が、この「弱小」野党たちに押され、提出したくもなかった法案を政府案で提出せざるを得なくなり、あげくその政府案すら、野党に押され修正せざるを得なくなったのだから。形こそ「政府案の成立」で、岸田政権に花を持たせた形になっているが、これは事実上、野党側の議員立法の成立に近い成果ではないだろうか。

法案制定でこれほど野党側が政府側を押し込んだ例としては、俗に「野党案丸のみ」と評された1998年臨時国会の金融再生法案がある。ただ、あの時は直前の参院選で当時の野党第1党・民主党が勝利し、参院で野党が多数派を占める「ねじれ国会」になっていた。現在の国会は与党が圧倒的に強く、それも直前の参院選では野党第1党・立憲民主党が大敗している。1998年とは真逆の状況にありながら、このような形で法律が生まれたのは、奇跡に近いとさえ思う。

どうして「ねじれ国会」でもないのに、弱小野党がここまで一定の結果を生むことができたのかと言えば、参院選のさなかに起きた安倍晋三元首相銃撃事件(7月8日)という不測の事態によって、岸田政権が選挙結果と関係なく崩壊過程に入った、という外的要因が大きいのだろう。そもそもあの事件がなければ、旧統一教会問題が臨時国会最大の焦点に浮上することもなかった。

しかし、あえてもう一つ理由を挙げるなら、野党がこの臨時国会で復活させた「国対ヒアリング」(名称は復活前と異なる)だろう。野党側は30回を超えるヒアリングで、旧統一教会2世の被害者の小川さゆりさんを含め、多くの関係者から丹念に話を聞き取ってきた。それが報じられることで世論が動き、この問題で当初「聞く力」を全く発動させなかった岸田政権も、渋々ながら重い腰を上げざるを得なくなったのだ。

思えば今年の初め、この「国対ヒアリング」(当時は「野党合同ヒアリング」と呼ばれていた)は、政界の各方面から目の敵にされていた。直前の昨秋の衆院選で立憲民主党が公示前議席を割り込んだ時、メディアを含む外野は「立憲は惨敗!」ムードをことさらにあおり、さらに十分な分析もないまま「共産党との共闘が原因」「野党は『批判ばかり』だから嫌われた」という言説が、根拠なく垂れ流された。その「野党は批判ばかり」の象徴として祭り上げられたのが、合同ヒアリングだった。

衆院選の結果の責任を取り辞任した枝野幸男前代表の後を受けた泉健太代表ら執行部は、党運営の経験の乏しさもあって、こうした根拠なき批判の雨あられを前に右往左往し、自ら「提案型野党」などと標榜して、合同ヒアリングをなくしてしまった。

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