安倍政権時代とは雲泥の差。統一教会の被害者救済法案成立の奇跡

2023.01.09
 

立憲はあの選挙で敗北したとは言えない。立憲の獲得議席、比例代表の得票とも、10年前に当時の民主党が政権から陥落し、第2次安倍政権が誕生した衆院選(2012年12月)以降の選挙では最も多かった。野党第1党(立憲)と第2党(日本維新の会)の議席差も、民主党の下野後最も大きくなった。

「多弱」だった野党勢力が、野党第1党の立憲を主軸としたまとまりに収れんし、さらにその規模も確実に大きくなった。2021年衆院選はそういう選挙だった。また、立憲はじめ野党勢力は多くの選挙区で与党側と互角の戦いを演じ、自民党の肝を冷やさせた。

公示前議席という1点のみに過剰に着目して「惨敗」ムードをあおり、野党の最大の武器を失わせる「総括」が、いかに政権与党に都合のいいものだったかは、少し考えれば分かるはずだった。若い泉執行部には、それが見えなかった。結果として立憲は通常国会で空気と化し、今夏の参院選では本当に大敗してしまった。

もっとも、参院選大敗は結果として、立憲にとって良い結果をもたらした。早い段階で「痛い目を見た」ことで、自らの誤りを自覚し戦術を切り替えることにも、早くから取り組めたからだ。参院選総括で「提案型野党」を反省した立憲は、新執行部人事では岡田克也幹事長、安住淳国対委員長らベテランを起用し「攻める国会」の構えを取り戻すと、旧統一教会問題をテーマに、野党合同ヒアリングも(名称は異なるが)復活させた。

そして臨時国会。立憲は、通常国会とは全く逆に「大敗した参院選の直後にもかかわらず、野党主導で国会を動かす」ことに、一定程度成功したのだ。

法律の内容の評価については、高い評価から「妥協」との批判までさまざまあるだろう。100%自分の納得のいく結果が出せないなら一切評価しない、そんな考え方も否定はしない。

しかし「政治の進め方」という点に限ってみれば、考え方の違う政治勢力が、意見をすり合わせてそれぞれが妥協を重ね、一つの合意点に到達するというのは、極めてまっとうなプロセスだ。重要事項を政府だけで閣議決定し、対決法案は強行採決によって力ずくで成立させることを繰り返してきた安倍政権時代を思えば、まさに隔世の感がある。

今回の被害者救済新法制定でみられたような国会の合意形成に向けた動きが、日常的に当たり前に見られる時が来ることを、筆者は心から願う。

最後に付け加えておくが、筆者は決して「合同ヒアリング」という形が定着してしまうことを望まない。本来、これは国会の中で行うべきことだ。ヒアリングなどと言って国会の外にアウトソーシングして良い話ではない。

野党が問いただすべきは官僚ではない。国会の中で閣僚(その多くが政治家であるはずだ)が政府を代表し、与野党の議員たち(忘れてはならないが、与党議員も本来は政府と対峙すべき存在だ)と厳しい質疑をしながら問題点をあぶり出し、十分に議論が煮詰まったら、最後は必要な合意形成を目指す。そんな国会が本来の姿であるべきだ。

ヒアリングがそんなにいけないというなら、各閣僚はヒアリングで官僚を表に立たせることをやめ、国会の表の場で自らが堂々と答弁すればいい。最近よく注目される「官僚の働き過ぎ」を改めるにも、それが一番良い方法ではないのか。

まともに答弁できない閣僚などいらない。臨時国会で3人もの閣僚を失った岸田文雄首相が今後、内閣改造をするのかどうか知らないが、もしやるというなら、人選に当たってはぜひ、旧統一教会との関係だけではなく、個々の政治家の答弁能力にも着目してもらいたいものだ。

image by: 首相官邸

尾中香尚里

プロフィール:尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト。1965年、福岡県生まれ。1988年毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを経て、2019年9月に退社。新著「安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ」(集英社新書)、共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。

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